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「HDR-HC3」設計者に聞く、CMOSの過去・未来小寺信良(2/3 ページ)

» 2006年05月22日 10時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

――CMOSの高画質化についておうかがいしたいんですが、以前CMOSと言えば安かろう悪かろうな感じでしたよね?

木下氏: イメージャーという意味ではCMOSの歴史は古くて、むしろCCDよりも古いぐらいなんですけど、当時からノイズが多いというデメリットがありました。CMOSは画素ごとの固定パターンノイズ、つまり構造的に1画素ごとにアナログアンプがついているようなものなので、そのバラツキでノイズが出るという原理的な宿命があります。

 一方、CCDのほうは、電荷を転送して最後にドンと電圧に変えるんで、そういうアナログ的なバラツキがないんです。それでCCDの方がクオリティ的にいい、ということになった。そして弊社含め一斉に開発がスタートしたので、飛躍的に性能が上がって、「CCDは高画質」ということで一気に成長していったわけです。

――ソニーではその画質が悪い部分をクリアしたから、HDVカメラとして製品化できたわけですよね? それには何か技術的なブレイクスルーがあったんでしょうか。

木下氏: CCDの高画質化の過程で培ってきた技術はいろいろ使える部分があるんですが、少しずつの改善しかなくて、これだっていうキーポイントはないと思います。ただ早いうちからCMOSでやるぞと決めて、リソースをそれにつぎ込んできた。

 CMOSというのはイメージャーだけでは動作しなくて、処理を行なうLSIとセットであるところが、CCDと違うところです。弊社の強みとして、イメージャーを作っている部隊と、商品を作っている部隊というのが1つになっているので、情報をクローズしなければならない部分がなかった。セット全体として最適なものが作れる体制にあったというのも、大きいと思います。

CMOSの不思議

 HC3と、同じCMOSを採用したDVDハンディカム「DCR-DVD505」では、動画撮影を止めずに3枚だけ高解像度の静止画を撮影することができる。これまで一部のMPEG-4系ムービーカメラでは実現していた同時撮影機能だが、テープに撮るカムコーダで実現できた意義は大きい。

――同時撮影が可能になったのは、CMOSが高速読み出し可能だったからですか。

木下氏: まずなぜこれまでCCDでできなかったかというと、例えば400万画素のCCDがあったとして、それで動画を出そうというときに、400万画素を1/60秒で出せないんですよ。そこでまず、イメージセンサーからのアウトプットを少なくする必要があります。そのために周囲の画素を足し算して、まとめています。例えば4つ足し算すると、全体の読み出し画素数は1/4になりますよね。こういうことをして1/60秒内で動画の映像を取り出しているんですけど、これでは400万の静止画は撮れなくなります。一方CMOSセンサーだと、それができるわけです。あとは受け取るLSIのほうの高速化ですね。この2つがあって、初めて実現できたんです。

――このときシャッターを押して撮れる静止画って、1秒間60枚刻みのうちのどれか、ということですか。

木下氏: 一番近いどれか、ですね。シャッターを押したときには、いったんそのフレームをRAWデータの状態でSDRAMに退避させておくのです。録画を止めたときにしばらく待つと思うんですけど、そのときにそこから取りだして、静止画として構築するという処理をやっています。

――今は3枚までですが、SDRAMの容量が増えればいっぱい撮れるということですか。

木下氏: カメラシステムとしては実は何枚でも行けて、これは単純にSD-RAMの容量です。あとはコストと使い勝手のバランスということで、この商品の場合は3枚と。またプロセス速度に余裕ができれば、動画撮影と並列で静止画処理をするということも、技術的にはいけると思います。

――もう1つの機能である「なめらかスロー録画」も面白いんですが、画質が大幅に落ちますよね。

木下氏: だいたいハイビジョンからSDぐらいの情報にするんです。現時点ではあの画質ですが、改善の余地はものすごくあると思っています。映像効果としておもしろいというのは十分わかりましたし、これは実際にCMOSを開発した厚木(※ソニー厚木テクノロジーセンターのこと。放送機器や半導体の設計部門がある)のエンジニアとも話して技術陣から提案したもので、ぜひやりたいと。

 実現にはデバイス、セット、制御のエンジニアまで巻き込んで、結構大変だったんですよ。でもカタログではあんまりうたってくれなくて(苦笑)。

CMOSの未来

――今回搭載した「クリアビッドCMOSセンサー」は、画素配列を45度回転して擬似的に高解像度を得るという技術ですよね。これまでこういう変形画素配列を採用した例は、富士写真フイルムの「スーパーCCDハニカム」ぐらいじゃないかと思うんですが。

木下氏: 弊社でも3CCDの画素ずらしはやったことありますけど、変形画素は初めてです。単板の画素ずらしというのはアイデア自体は古くて、10年も前から出ているんですけど、良いところ悪いところがあります。それを最初に商品化に結びつけたのが、富士写真フイルムさんでしたね。その後はほかにないと思います。

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