画素ずらしによる擬似高解像度化は、特に1枚のCCD画素数を増やせない3CCDのカムコーダで、高解像度の静止画を撮影する技術として採用例が増えている。ただこの技術も、未だ出来不出来が大きい技術である。
木下氏: 45度ずらして画素を敷き詰めるということは何も新しくないんですけど、クリアビッドは色配列がユニークなんです。デジカメなどで広く一般的に使われているのはベイヤー配列と言いまして、G:R:Bの比率が2:1:1になっています。一方クリアビッドでは6:1:1になっています。そこが非常に大きな差になりますね。
――Gをこんなに使うのはなぜなんですか?
木下氏: 人間の目というのは、色を細かく持ったものと緑を細かく持ったものと比較すると、緑の方が解像感が高く感じるという特性を持っています。このクリアビッドの配列を縦と横で見ていくと、必ず緑の間隔が同じになっているんです。また輝度信号はRGBから作るんですけど、Gが支配的なんですね。つまりGをいっぱい持っていると、低照度に強くなります。
実はイメージセンサーということで、筆者にはぜひ実現できないか聞いてみたいことがあった。以前このコラムでも紹介したことがある、スイングレンズ方式のパノラマカメラをデジカメでできないか、ということである。このような方式は、撮像面が湾曲していなければ実現できない。CMOSにその可能性はあるだろうか。
木下氏: 撮像面を湾曲させるのは、アイデアとしては以前からあって、例えば「写ルンです」が綺麗に写るのは、フィルムを湾曲して張っているからだという話もあります。これによってレンズ収差などを吸収するわけですね。ただCMOSのイメージャーは、シリコンの上に積層させるので、作ってから曲げるのは難しいと思います。そうなると最初から曲げて作るということになりますが……。
――あるいは逆にイメージャーが高画素化することで、あまり使われることのないデジタルズームも劣化なしでできる、ということはできるでしょうか。
木下氏: それはできると思いますね。今でもHDサイズに対してオーバーサンプリングしてますし、電子ズーム使っても、画質劣化がほとんどない領域というのはあるんです。今後画素が増えていったら、レンズのズームに期待していたところを信号処理で劣化なく、ということができるかもしれませんね。
間もなくコンシューマーのビデオカメラは、ハイビジョン戦国時代へと突入していく。そうすると真っ先に辛くなるのが、レンズの性能である。高解像度でも歪みや収差のないレンズが存在しないわけではないが、上質になればそれだけ価格が跳ね上がっていく。このようなアナログ光学部品には、技術的なブレイクスルーが訪れて、ある日突然高品質のものが1/10の値段で作れるようになる、という可能性は限りなく低い。
現在行なわれている疑似高画素化技術は、まだイメージャーに対する補完技術だが、今後重要になってくるのは、光学特性を他の部分でカバーする技術なのではないかと考える。このあたりをモノにできたメーカーが、ハイビジョンカメラ戦争に生き残れるだろうと予測している。
各カメラメーカーには、DVカメラ全盛期に陥ったような無意味な数値競争、世界最小最軽量競争ではなく、独創性のある技術革新で我々をドキドキさせて欲しいと願っている。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR