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放送制作の現場に聞く、デジタルテレビ放送の+αインタビュー(2/2 ページ)

» 2006年05月30日 09時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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テレビ番組にデジタルでなにをプラスするか

――では、具体的にはどのような番組、コンテンツがデータ放送にふさわしいと考えているのですか?

田中氏: 私たちは放送局で、やはりテレビ番組を見て欲しい組織なんです(笑)。ですから、先ほど申し上げたように、基本的にデータ放送は「テレビ番組を見てもらうための仕掛け」です。その上で、生活を便利にしたり、テレビをより楽しんでもらうための仕組みとして、データ放送を位置づけることが大切だと思います。

 天気予報や株価情報はテレビ番組でも伝えていますが、いつでも天気や株価を知ることができたらもっと生活が便利になりますよね。放送しているテレビ番組をベースにした上で、データで何を足していくか。そこが基本的な考え方ですね。

 それに、テレビ番組では伝えきれない細かな情報もデータ放送ならばフォローできます。離島の天気や国会で審議されている法案の詳細など、一部の人にとっては非常に有益だけれども、一般の番組編成では伝えられない情報はまだまだあります。そうした情報を提供することで、テレビ自体のバリューを高めることができるのではとも考えています。

 私はバラエティやドラマの企画制作を手がけているのですが、そうした番組にどういった内容のデータ放送がふさわしいかはいつも考えています。基本的にはとにかく番組を見て欲しいのですが、そこにデータ放送をプラスするならば、提供する内容のほか、提供するタイミングも考えなくてはなりません。

 クイズ番組「ためしてガッテン」の場合、番組自体はデータ放送と直接連携していませんが、データ放送で前回放送の内容から出題されたクイズを楽しめるようになっています。つまり、まずは番組を見てもらって、見た後に楽しむコンテンツの提供手段としてデータ放送を用いるわけですね。

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 これが視聴者参加型番組となると、かなり様子が変わってきます。代表的なのが紅白歌合戦ですね。デジタル化に際して視聴者から意見を聞いた際、「紅白歌合戦の勝敗にかかわりたい」という要望が非常に多かったんです。

双方向の番組作りは“異次元的”

田中氏: 個人的には紅白歌合戦の勝敗にさほどの興味はなくて(笑)、翌日のニュースで知ればいいかぐらいの認識だったんですが、社内に意見を求めても、参加できるならば参加したいという意見が目立ちました。ただ、さほど興味がないという人も同じくらいいたんですね。

 そうなると大事になるのが、さほど興味がないという人にも参加してもらうための番組作りです。実際、ここ数年は紅白歌合戦の中継中に、「データ放送で投票に参加できます」という告知をしていますが、呼びかけが1〜2分という短い時間の呼びかけにもかかわらず、8万近くの投票が集まった年もあります。

 「1%=100万人」という視聴率的な考えからすれば微々たる数かも知れませんが、8万といえば東京ドームの収容人数を超える数ですから、積極的な視聴者がそれだけリアルに存在しているという手応えを感じるのはうれしいことですね。

 データ放送そのものは対応テレビを利用している人すべてに届きますが、双方向の仕組みを番組企画へ取り入れた瞬間、「視聴者が来る(参加してくれる)」かが大切になります。見てもらえることを考えれば良い番組から、参加してもらえる番組へ、番組作りそのものが変わらなくてはなりません。

 クイズ番組を例にすれば、解答者が答えを考えている時間はある意味ムダな時間、カットできる時間なんです。30秒あればCMを2本流すこともできます。しかし、双方向型番組にして視聴者の解答を受け付けると、この30秒は「解答受付時間」として構成上カットできない時間になります。

 演出のやり方も変化が求められます。これまでのクイズ番組ならば番組冒頭にいきなり難しい問題が出題されるのも演出としてはアリなんですが、参加型で1問目があまりに難しいと視聴者がその瞬間に離れてしまうんです。正解率が50%と予想される問題をまずは出題し、その後に難しい問題を出していくなど、演出にも変化が求められます。

 こうした番組構成や演出の変化は、テレ番組を制作する側からすれば、異次元的とも表現できるほど大きなものなんです。放送に参加するモチベーションをいかに視聴者に持ってもらうか、いかに参加するモチベーションを高める演出ができるか、「参加してもらえる番組作り」のノウハウはまだ十分に蓄積されていません。

 ただ、あくまでもテレビは受け身で楽しめるものである必要もありますから、こうして双方向をあまりに意識した番組を制作すると、見ているだけの人が面白くなくなってしまう恐れもあります。見て面白い、参加するともっと面白い、そうした番組が理想ですが、まだまだ試行錯誤の段階ですね。

――参加型番組では、テレビ放送で番組を送信し、電話回線やインターネットといった通信で視聴者から情報を受け取るという「放送と通信の融合」が発生しています。放送と通信は今後、どのような関係を築いていくのでしょうか。

田中氏: 放送と通信の融合について語る際、よく出てくる言葉として「メディアコンバージョン」という言葉があります。私はコンバージョンを「融合」ではなく「連携」「接近」であると人から聞き、非常に納得できたんですね。お互いを活用しながらも、1つに溶けあってしまうのではなく、それぞれの特性をいかしていくという方向性が理想ですね。

 デジタル放送が開始されて5年が過ぎ、番組制作や技術的なノウハウもどんどん蓄積されています。やりたいこと、やれることもたくさんあります。テレビ屋である私たちとしても、放送と通信、いずれもが情報やエンターテイメントの窓口であり続けて欲しいと思っていますし、そうなるためにはどのような努力をしていくべきか考え、実行していきたいと考えています。

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