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れこめんどDVD「ラスト サムライ(HD DVD)」DVDレビュー(2/2 ページ)

» 2006年07月14日 10時01分 公開
[飯塚克味,ITmedia]
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細部が見えすぎるため、霧の動きのミスマッチを発見

 CH-8では近代化を推し進める政府に反対する侍たちに、いよいよネイサンたちが戦いを挑むことになるのだが、この場面、DVDでは大敵とされる霧が充満したものとなっている。しかしさすがはハイビジョン。ブロックノイズのかけらも感じさせず、“霧”を“霧”として見事に表現している。その中から現れる馬に乗った侍たちのカッコよさには惚れ惚れとしてしまうくらいだ。またあまりにも霧の表現が空気感に満ち、その流れまでも見せてしまうため、繰り返し見ていると、霧の流れる方向がマッチしていないカットもあることが分かってしまう。これは製作者たちにとってはあまりうれしくない事態だろう。

 CH-10では勝利を収めた侍たちがネイサンを捕虜にして、自分たちが隠れている里に帰っていく場面だ。実景部分はニュージーランドで撮影されたそうで、音声解説で監督が「日本人にはちょっと納得しがたい映像かな?」とも語っているが、富士山との合成もまずまずうまくいっており、雄大な雰囲気はよく出ている。DVDと違って見えたのが、地面に生えている植物がとても日本のものとは思えない点だ。

 CH-11からは里の描写が続く。美しい自然描写はもとより、セットと実物が入り混じっているとは思うが、家屋の質感などもとても“和”の感覚に満ち溢れている。

 CH-12では寺院でネイサンと勝元が面談するが、格子模様が多く、DVDではモニターによってクロスカラーのノイズが目立ってしまうケースもあった。もちろんHD DVDではそのようなノイズは見えず、物語に集中できる。

 CH-13は真田広之演じる氏尾が雨の中、ネイサンを木刀でめった打ちにする場面だが、ここでも雨の表現力が素晴らしく、2人の心の間の距離感を感じさせる役割をうまく果たしている。その後、ネイサンは徐々に侍たちの武士道に惹かれていき、日本語も覚えていくようになる。

 CH-17では雪景色が描かれるが、雪の白さの中にも微妙な濃淡が感じられ、ベタッとならずに奥行きをキープしているのは見事だ。

 CH-20で咲いている桜の美しさも忘れがたい。もし桜にこだわる鈴木清順監督がこの映像を見たら、自身の作品もHD DVDで出したいと言い出すのではないだろうか? 物語はこの後、勝元が都に降りて、侍の今後について相談するものの受け入れられず、政府軍と侍たちの大戦争へと発展することになる。

 CH-32では侍たちは鎧に身を包み、戦に出ていくのだが、勝元の鎧の装飾はHD DVDならではの表現力に満ちているので、是非見逃さないで欲しい。

 またCH-33以降のクライマックスの戦闘シーンは「ブレイブハート」や「パトリオット」のような作品にも劣らない迫力が体感できる。ロングショットであれば兵隊の数がしっかりと認識できるだろう。勝元率いる侍たちの死に様も恐ろしいまでにしっかりと描き出している。

圧倒的なクオリティを考えれば、この価格も納得

 ある意味劇場以上の感動を得ることもできるHDソフトの能力に改めて驚きを感じた。特に大勢の人がワンカットに登場するモブシーンでは、その威力を思い知ることになろう。本作はHD DVDプレーヤーを購入した人なら絶対に欠かすことができない高品位ソフトと断言できる。

 「ラスト サムライ」のDVDは決して画質が悪いものではない。それどころか、DVDとしては非常に優秀な画質に値すると思っている。しかしHD DVDの画を見た後では、目を凝らせば凝らすほどぼやけた映像にしか見えてこない。障子が映ると残像のように見える縦ノイズが気になって仕方がない。人間の感覚というものはつくづく贅沢にできているようだ。

 映像コーデックはVC1を採用。日本版HD DVDソフトはみなMPEG-4なので、海外でオーサリングされたのではないかと思われる。その影響かもしれないが、北米版のHD DVDとの差も感じられなかったのはうれしいことだ。ハイビジョン信号は1080pでの収録。現在発売中の東芝HD-XA1は1080iまでしか対応していないので、いつか対応プレーヤーが登場することを期待したい。

 音声はオリジナル、日本語<ボイスオーバー>共に、ドルビーデジタルプラスで収録。音質には何の不満もないが、他のソフト同様、レベルがDVDに比べ低めに聞こえるのが少し残念だ。(アンプはYAMAHA DSP-AX4600を使用、HDMIで接続した)

 映像特典は約2時間。「トム・クルーズ:サムライの旅」「エドワード・ズウィック:ビデオ日記」「ドキュメンタリー:歴史とハリウッド」「サムライの時代の再現」などを収録している。唯一カットされたのは文字資料のテキスト特典「武士道について」のみ。日本人としてはやはり「日本プレミア」が収録されたのがうれしい。ただ字幕で“京都”ってあるけど、どうみても東京の六本木ヒルズなのが、いかにもアメリカ人が編集したという感じ。また監督による音声解説も収録しているので、そちらも是非聞いてみて欲しい。

 価格は税込みで3980円。DVDの2枚組は税別で2980円だったので、1000円の増額だが、映像のクオリティを考えれば十分な低価格商品と言えるのではないだろうか?日本での興行収入は何と140億円!全米以上のヒットを記録した国民的名作なだけに、手元に置く価値は高いはずだ。

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