ITmedia NEWS >

れこめんどDVD「ブラザーズ・グリム(HD DVD)」HD DVDレビュー(2/2 ページ)

» 2006年08月11日 16時15分 公開
[飯塚克味,ITmedia]
前のページへ 1|2       

劇場以上の臨場感と立体感。あまりにリアルで気分が悪くなりそうなシーンも

 CH-3からは映画の舞台の中心を占めるマルバデンの森が登場。ここでは赤ずきんが謎の物体に襲われる。この森はセットで作られたものだが、幾十にも植えられた木々が森の奥深さを感じさせており、HDの高画質で見ると、劇場以上の立体感を感じることができた。赤ずきんが逃げようとして村に戻ろうとするのだが、門の手前で捕まってしまう。このとき石で作られた門が映るが、その内側が濡れているのがよく分かる。こうした細かい演出がこの場所の湿度をも表現し、映画より臨場感を与えている。

 CH-4では魔女を撃退し、勝利の美酒に酔いしれる兄弟たちの様子が描かれるが、カップや大勢のエキストラの衣裳、楽団が使っている楽器の細部まで見渡すことができて、こうした点からもこの作品が大金をかけて製作されたことに気付くはずだ。「ロード・オブ・ザ・リング」でホビットたちが立ち寄る酒場と比較しても、決して遜色のない出来となっている。

 CH-5以降は外景はほとんどモノトーンとなり、映画の雰囲気がグッと暗くなってくる。兄弟はこの地域を取り仕切るドゥラトンプ将軍の前に連れて来られ、これまで大勢の村をだましてきた罪を許すのと引き換えに、誘拐が続くマルバデンの村の問題を解決するよう言い渡される。ここで将軍の部下で拷問の達人とされるカヴァルディが登場するのだが、カタツムリを使っての拷問シーンには、あまりのリアルさに思わず気分が悪くなりそうだった。

 CH-7では兄弟たちがマルバデンの村に乗り込むのだが、石造りの家屋の数々が素晴らしい出来。ここは美術スタッフの仕事の充実ぶりが実感できる。また泥の湿った感じも、風土をよく感じさせスゴイ。このすぐ後に兄弟は森のガイドを頼みに村の女性猟師、アンジェリカを訪ねるのだが、このとき彼女はウサギをさばいている真っ最中。皮がめくれて肉が剥き出しになるカットはDVDよりはるかに衝撃的だ。おそらく映画用に作られた小道具なのだろうが、血のテカリ具合など、どう見ても本物にしか見えない。

 CH-9以降は誘拐された子供たちを捜しに森に入っていくが、地面に落ちている枯葉の量がしっかり認識できたのには感動を覚えた。セットで作られた森と言えばリドリー・スコット監督の「レジェンド/光と闇の伝説」があるが、本作の森もそれ以上に魅惑的な完成度を誇っている。

 CH-12では魔法使いの女王によって狼人間にされたアンジェリカの父親が登場するが、VFX丸出しに見えてしまい、これは逆に高画質が仇となってしまった。後に登場する泥からできたモンスター、ジンジャー・ブレッド・マンの時はさほど気にならないので、記憶の中に本物がインプットされている生物の場合は本能的に比較してしまうのだろう。

ギリアムのこだわりをHDで再確認

 CH-13では晩餐会を開いているドゥラトンプ将軍の前に、逃げ帰ったカヴァルディが報告に来るのだが、晩餐会の様子が素晴らしくそちらに目を奪われてしまった。ファーストカットでは大勢の客がいるのだが、次のカットではそれが鏡によって作られた奥行きであることが分かる。テリー・ギリアムらしい皮肉たっぷりのカット。しかし、そこで使われている食器や高貴な身分を示す衣裳の出来はため息ものだ。HDでなければここまでは見えないはず。

 この後はモニカ・ベルッチ扮する女王とグリム兄弟の対決を軸に、ドゥラトンプ将軍との確執も描かれていくのだが、女王の部屋の映像は圧巻だった。また鏡の中でしか若さを維持できず、実際の女王は死ぬことができないまま、永遠に年を取り続けていたので、髪は異常に長く、肉体はほとんどミイラ化している。その特殊メイクの凄まじさもHDなら十分な効果を満喫できる。

 音声はオリジナルの英語、日本語吹替版共にドルビーデジタルプラスで収録。レベルが低いのはいつものことだが、森の中での木々のきしみや壮大な楽曲がうまくハマっており、大作風のサラウンドを楽しむことができる。個人的に面白いと感じたのは、CH-7のみんなが一斉にツバを吐く時の音や、CH-8でウサギを捌く時に周囲を飛ぶハエの音響だ。

映像特典でもギリアムの本音が炸裂

 映像特典は各種予告編、スタッフ&キャストプロフィール、テリー・ギリアム監督のコメンタリー、「映画になったおとぎ話」と題したメイキング、削除されたシーンを収録。先に発売された「DTSプレミアム・エディション(2枚組)」に比べると若干内容は減っているが、特にコレクターでもない限り、不満は少ないだろう。

 メイキングでは和太鼓の演奏が有名な“鼓童”のTシャツを着て演出する監督の様子も見ることができる。また、これでギリアム作品には3本目の出演となるジョナサン・プライスが「テリーの作品にだけ出ていたいが、そうすると稼ぎが減ってしまうんでね」と語るコメントが笑えた。

 削除シーンではグリム兄弟とアンジェリカが巨大な大木に襲われ無数の枝と戦うスゴイ場面が収められているのだが、監督の「必要以上に壮大にはしたくなかった」という理由でカットされたことも語られる。この映画は8000万ドルもの巨額の製作費を投じて製作されたが、監督のこのコメントを聞いた出資者たちの表情を想像したら、思わず吹き出してしまいそうになった。

 また他の削除シーンでは第2班監督を務めたミケーレ・ソアヴィの演出シーンも見ることができる。ホラーファンなら彼のことは知っているだろうが、ダリオ・アルジェント監督のスタッフを経て、「アクエリアス」「デモンズ'95」などを演出。その後、家族の都合により映画界を去ったと聞いていたが、今回の意外な登場には心底驚かされた。彼の参加はこの映画のおどろおどろしい雰囲気作りに大いに貢献したに違いない。

高画質ファンならマストバイ・タイトル

 先ほど製作費が8000万ドルと書いたが、全米での興行は4000万ドル足らずと大きく期待を裏切った。しかし、これはミラマックスが親会社ディズニーから独立する件が影響して、十分な宣伝が行われなかったことが要因だと監督が来日時のインタビューで語っていたので、コケたことはあまりマイナスに考えない方が良いだろう。

 実際、この作品には潤沢な予算をかけただけの画作りが行われ、HD DVDでは入念に作られたその成果を実感できた。高画質ファンを自認するのであれば、一度は目を通しておかねばならないソフトと呼べるだろう。


この作品を購入したい→amazon.co.jp

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.