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れこめんどDVD:「西鶴一代女」DVDレビュー(2/2 ページ)

» 2006年10月16日 09時15分 公開
[サトウツヨシ,ITmedia]
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「ダンサー・イン・ザ・ダーク」な田中絹代

 井原西鶴「好色一代女」を下敷きに、悲運のヒロインである「お春の一生」を描く形で構成された本作。英題も「LIFE OF OHARU」。

 原作も映画も、人生いろいろあって街娼となり果て辿り着いた、京のとあるお寺で出会った五百羅漢の仏像たちに、薄れゆく意識の中、恋の遍歴の相手を重ね合わせ回想していくという、オムニバス形式で語られる構成は同じ。

 ちなみに五百羅漢ってどんな感じ? という人は東京・目黒の「らかんさん」へ。「見仏記」(いとうせいこう・みうらじゅん共著)によりますと、それはお釈迦様のコンサート会場でしょ。とのことですぞ。

ご参考:東京目黒・五百羅漢寺 http://www.rakan.or.jp/

 話を元に戻しまして。ただし西鶴の原作では、あえてヒロインの名前は特定されておらず、さまざまな境遇、職業の女たちのバッドラブがサンプリングされています。

 そんな不幸の数々をひとりの女に背負わせてしまったミゾグチの「西鶴一代女」は、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(00)、「嫌われ松子の一生」状態といえるでしょう。演出手法は真逆ですけど。

 ビョークや中谷美紀が、本作における田中絹代を見本にしたかは定かではありませんが、彼女らの共通点は「ブス」をあえて演じ切っていることだと思います。世紀の映画女優・田中絹代が醸し出す女の情念、それはニャーニャーニャーッ!(詳細は後述)というわけでお春の一生を以下、簡単にご説明いたします。 

 由緒正しき家柄に育つ→若党と恋に落ち、相手は不義密通の罪で斬首、お家も追われ都落ち→殿様の側室としてスカウトされるも出産後、出戻り→父親の意向で遊郭へ身売り→反物屋・笹屋に救われ、女将さんの髪結いなどを担当→ 笹屋主人を惑わせ大変なことに、髪結いだけが知る女の秘密も暴露→笹屋番頭と逃げるが、相手は横領の罪で逮捕→再び出戻ると扇屋・若旦那から縁談、結ばれる→扇谷若旦那、強盗殺人にあい死去→路頭に迷い街娼に→出家

 とにかく薄幸。全編、田中絹代の演技には迫力。特に女の情念が発酵し匂い立つのは、しがない街娼に身をやつしたとき。オッサンに声をかけられ、ついて行くとそこは巡礼宿。「みなさん、見なさい。妄執にとらわれるとこうなってしまうのです」というノリで紹介、って何という仕打ち。自らを冷笑して立ち去るお春、が突如、振り返り小走りで戻ってきて、「そうさ、私は化け猫さ、ニャーーー!!」みたいなことを言うんですよ、ホントに。カンペキ主義の映像に、うがたれた次元の裂け目ですな。

 あと本作においては、ミフネがビミョーです。ミゾグチ作品への出演はこれが最初で最後となりました。役どころは序盤に登場する不義密通の若党。これ以上は言及しませんが、特に斬首の刑に処せられる直前の感じがビミョーです。

 一方で異常なオーラを発光するのが、大泉滉演じる反物屋の番頭。一方的にお春に恋し、一方的に逃避行を開始し、金を盗んだことがバレてつかまりフェードアウト。不思議な存在感があった晩年の「夢みるように眠りたい」(86)をまた見たくなりました。

スタンダード・サイズで完結した映像美(ノイズ含む)

 52年製作の本作はスタンダード・サイズで撮影。ビスタサイズ、シネマスコープを手にすることなく、ミゾグチは56年没します。また、DVDに収められた映像は「原版上の事情で一部お見苦しい箇所がございます」。

 ミゾグチのカンペキ主義な映像がワイドスクリーンで撮られたら、デジタルリマスターされたらと想像してしまいますが、ミゾグチのカンペキ主義ゆえに、さらなるスタッフ泣かせの状態に陥ることも容易に想像できるわけで。だから、遺産はそのままでいい、古寺を巡礼するように堪能すべし、なのかもしれません。

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