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「高音質配信」は本当に“いい音”か?――iTunes Plus編レビュー(1/2 ページ)

» 2007年06月28日 10時56分 公開
[野村ケンジ,ITmedia]
photo iTunes Store

 以前から「ネットで曲を買う」手段はいくつかあった。しかし、それらは結局のところ「ネット通販でCDを買う」ということにほかならず、単に店舗がネット上に移っただけにすぎなかった。「音楽データをダウンロード購入する」という販売形態が普及し始めたのは、iTunes Store(開始当時はiTunes Music Store)が登場してからといって差し支えないだろう(携帯電話の「着うた」からという意見もあるが)。まだその歴史は浅いが、着実に、急激に広まりつつあるのは確かだ。

 僕は多くの人と同じく、この音楽配信というスタイルに大きな期待を寄せている。期待している理由はたったひとつ。それは、CDなど物理的なメディアの呪縛から逃れることができる可能性を秘めているからだ。

 CDはその誕生からすでに20年近くが経過している。新しいフォーマットが次々と生まれ数年後にはすっかり勢力図が入れ替わっていることが多いデジタルメディアのなかでは貴重な存在だ。SACDやDVD-Audioのような次世代オーディオ規格もいくつか登場しているが、CDに取ってかわる存在には至っていない。

 それはCDというメディアが素晴らしい完成度を持つことことも意味するが、同時に、ユーザーへ提供される音楽のクオリティが何ら変化していないことも意味している。僕たちはおそよ20年間、サンプリングレート44.1kHz、量子化ビット数16bitというベートーベンを12センチディスクに納めるために決定された(というまことしやかな噂のある)音しか聴けなかったのだ。

 音楽ファンだったら誰しも「できるだけ良い音で聴きたい」と思うのが人情だろう。SACDやDVD-Audioが普及しなかったのは、ユーザーが高音質を求めていないからではなく、単に好きなミュージシャンのアルバムがSACD/DVD-Audioで出ていないうえ、再生環境が一般化しなかったからだと僕は思っている。現に、SACDが再生できるラジカセが世の中に何台ある!?

 CDという容器に束縛されていない音楽配信は「良い音を聴きたい」ニーズの受け皿ともなりうる貴重な存在だが、残念ながら現実は大きくかけ離れている。現在、楽曲はAACやWMAなどの圧縮音楽で配信されており、CDよりもさらに音質は劣る(圧縮音源が“CDなみの音質”という幻想をいまだに信じている人はいないはずだ)。

 ここ20年で録音の機材も技術も飛躍的に進化している。具体的な数字でいうと、48kHz/24bit録音は当たり前、96kHz/24bitでさえ珍しくはない。そういった状態であるのにかかわらず、その音を44.1kHz/16bitに落とし込み、さらに圧縮したものを我々は提供されているのだ。利便性とのバランスを保つという側面もあるだろうが、なんというジレンマだろうか。

 そんな現状に一筋の光明を差し込んでくれたのが、「iTunes Plus」だ。ファイル形式は相変わらずAACでサンプリングレートにも変化はないが、ビットレートを128kbpsから256kbpsへと倍増させており、音質を高めようという方向性を明確に示している。

 また、オンキヨーが運営している「e-onkyo music」では、他の音楽配信サービスとはクオリティ面で一線を画す高音質楽曲の提供がスタートしている。こちらはWMAのロスレスという音質優先のファイル形式をメインに、一部ながらも、96kHz/24bitというCDの呪縛から完全に解き放たれた新時代フォーマットでの高音質配信を行っている。

 さて、これらの新形式は、既存の音楽配信に対してどのくらい音質を向上させ、理想の未来へとどの程度歩みを進めたのか。その実力を徹底的にチェックしてみた。

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