まずはiTunes Plusからチェックした。試聴に利用した曲は女性ジャズボーカリスト、ノラ・ジョーンズの「Seven Years」(「come away with me」収録)。既存のiTunes Storeで購入した楽曲とiTunes Plusで購入した楽曲に加えて、CDから取り込んだWAVを用意し、聞き比べながら、参考としてCDとSACD、2つのディスクも聞いてみた。なお、試聴はビットレートの低いものから行い、そのあと必要に応じて既存のiTunesと個別に聞き比べている。
機材としては、音のわずかな違いを聴き逃さないためにも、スピーカーは我が家のリファレンスである、40センチウーファーとホーンドライバーの組み合わせた大型2ウェイシステム、パイオニア「TAD」を使用した。PCからの出力については、オンキョーのUSBサウンドデバイス、“WAVIO”「SE-U55GX」を利用した。
まずは既存iTunes(AAC 128kbps)から。何度も試聴している聴き慣れた音だが、高域がカットされている影響で声に伸びやかさがなく、女性ボーカルには厳しいことを再認識した。全体的に音が荒れ気味で、かつ低音に音抜けがあって一体感がない。音数が少なくなっていることが逆に功奏し、ボーカルが浮き上がって聞こえるのが唯一の救いだろう。BGMとしては使えるかもしれないが、面と向かって聴き入るには無理がある。
さて注目のiTunes Plus(AAC 256kbps)はどうだろう。変えたとたん、あまりのクオリティの差に驚きを隠せなかった。高域、低域ともに伸びがまったく違う。歌声はとても伸びやかになり、ノラ・ジョーンズの語りかけてくるような優しい歌い方が感じられるようになる。
低域もレンジが広がり、既存のiTunes楽曲では聞こえなかった最低域の音が聞こえるようになった。このクオリティなら「音楽」を楽しめるだろう。今回使用した大型のスピーカーではアラが目立つ部分もあったが、PC用スピーカーやiPodに転送してヘッドフォンで聴く限り、それほど不満には思わないはず。これを一度聴いてしまったら、既存のiTunes楽曲には絶対に戻れなくなってしまうだろう。
続いてCDから取り込んだWAV。iTunes Plusに比べても、さらに音のきめ細やかさが向上していることが感じられる。音に一体感が出てくるため、音楽に没入できるようになる。iTunes Plusの良さには感動したが、まだまだこの域までは達していない。圧縮音楽の限界だろうか。
さらにCDを聴くと、理論上は非圧縮のWAVと同じ音であるはずなのに、不思議なことにかなり印象が異なる。音に揺らぎがないというか、どっしりと落ち着いて安定しているのだ。音の細やかさは変わらないものの、WAVにはなかった空気感までうまく再現されており、奥行きのあるステージングも生まれている。これに比べるとWAVは表層的というか、かなり薄っぺらい音に感じてしまう。CDは良くできたメディアだと再認識させられる。
最後にSACDを試聴。こちらはもう、まったく次元の違う音。プレーヤー(デノンの「DVD-A11」を使用)が違うため単純な比較はできないが、その差はCDが麻だったらSACDは絹のよう。きめ細やかさを通り越して、艶まで感じられる。強弱のニュアンスもかなり綿密に再現されるため、リアリティが圧倒的に高まっている。ノラ・ジョーンズの幻が、目の前に見えるようだ。
結論を言うと、iTunes Plusの実力は相当高い。iTunesは、ユーザーのためにも今すぐ全面的にiTunes Plusへと切り替えるべきだとも主張したくなる。確かに両者の価格差は気になるが、ここまでクオリティに違いがあれば多くの人が納得できるだろうし、それにこの価格差には、DRMフリーという大きな恩恵も付いてくる。
しかしその先、CDのクオリティを超えるには、まだいくつものハードルが待ちかまえていることも事実。いまもっともメジャーな音楽配信であるiTunesだからこそ、その先を見越したさらなる展開を期待したい。
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