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「1世代コピー9th」では誰も幸せになれない小寺信良(2/3 ページ)

» 2007年07月23日 08時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

従来の機器はどうなる?

 かなり無理はあるが、これからのレコーダーはそれでがんばって作っていけばいいじゃないか、という話かもしれない。だがすでにデジタルレコーダーは、国内に約280万台以上も出荷されてしまっている(JEITA資料)のである。コピーの有限回数制限への変更を行なうことになると、既存のレコーダーはもちろん、テレビも現状のままでは済まない。

 そもそもデジタルコピーの制御記述子は、たった2ビットのcopy_control_typeというフラグで規定されているにすぎない。2ビットということは、組み合わせが4つしかないということである。その内訳は、00がコピーフリー、10がコピーワンス、01は未使用、11がコピー禁止となっている。01フラグが未使用なので、ここを「9回コピー」というフラグに規定することになるだろう。

 従来の機器で、これまで使われていなかった01フラグがやってきたときにどのような挙動をするのかは、各メーカーの設計者にしかわからない。おかしな挙動にならないよう、放送波を使ったファームウェア更新で修正することは可能だろう。

 テレビはそれでいいとしても、レコーダーの場合はコピー回数をカウントダウンする機能などは最初から搭載していないので、結局は01フラグを受信しても10フラグ、つまり従来どおりのコピーワンスと見なすような受け流ししかできないだろう。

 つまりコピー9thを享受できるのは、次のレコーダーの買い換えからで、現行機種を使っている間はこれまで通りのコピーワンス運用と何ら変わらない、という事態になる可能性が高い。もちろんこれまでポータブル機器で番組を楽しんでいた人たちも、一緒にそれに対応したものに買い換える必要がある。

 この1世代コピー案は、あくまでも現状、HDDが固定であるレコーダー、そしてそれからDVDメディアへ保存という、目の前に存在するスタイルしか見えていない。技術オンチが単に言いたいことを言っただけの話なのである。将来それらの形が変わるかもしれないというところまでのマージンを持たせていないところに、これまたコピーワンスがそうであったように、後々まで禍根を残す要素が含まれている。

 筆者はJEITA案であるEPNを擁護する義理も借りもないし、金も貰ってない。むしろ本来の主張はコピーフリーに戻すことだが、どうしてもなんらかの保護が必要ということであれば、EPNは技術的に見れば妥当であり、すでに米国では運用実績がある。それに対して「1世代コピー」は、たとえ回数が何回になろうとも、消費者にとっては最悪のパターンになる可能性が高い。

逆転の切り札?

 筆者がもう一点気になるのが、この1世代コピー9th方式が私的録音録画補償金制度とセットであるということである。13日の発表からすぐに権利者団体が補償金制度存続をアピールしたことに不快感を感じている人もいるかもしれない。

 過去の検討委員会の流れから言っても、1世代コピー案は補償金制度の存続が前提で話し合われてきている。ご存じのように補償金制度の存続に関しては、文部科学省の著作権分科会 私的録音録画小委員会という別のフェーズで議論されている。ここでも漏れ聞くところによれば、現状維持に傾きつつあるようだが、それとは別の方向から今度は9回コピーをエサに、補償金制度存続の搦め手で来た格好となっているわけである。

 権利者会議発の補償金制度不可欠声明を丁寧に読むと、世論の矛先をJEITAへ向けようとしているのがわかる。これまでJEITAは、EPNによるコピーワンス規正緩和に対して、権利者側がテーブルに着かないことを非難してきた。また補償金制度廃止という方針を打ち出し、消費者を味方に付けてきた。このため世論は、権利者憎しの構造へと傾いている。コピー9thはこれを緩和し、権利者側とJEITAの立場を逆転する切り札として使われたのである。

 つまりこれは幕末における、尊皇攘夷論と佐幕開国論のシーソーゲームと同じ構造だ。江戸末期の多くの武士は、双方がイデオロギー的に結びつかないことがわかったあとでも、尊皇と攘夷を切り離すことができなかった。しかし結局は開国してでも富国強兵して攘夷を成し遂げるというウルトラCによって、攘夷論者と開国論者をそろって倒幕へと向かわせ、結果的には尊皇(倒幕)開国という形に決着した。

 この議論には、どうやらそういうウルトラCが必要のようだ。このまま進めば、おそらく日本全体にとって最悪のシナリオが待っている。

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