ウィテカーが攻めの演技なら、もうひとりの主役、ニコラス役のジェームズ・マカヴォイは受け役に徹している。架空の人物であるニコラスは、観光客気分でウガンダを眺める人物として描かれる。
人の命は救いたいが、地味な町医者になるのは嫌でアフリカへ飛び、無医村で子どもにワクチンを打つより大統領の主治医になる方を選ぶ男だ。ニコラスはアミンの寵愛を受けて贅沢な生活を楽しみ、医者の本分を逸脱すると知りつつも政治にも足を突っ込む。気づいたときには、すでにアミンの手から逃れられなくなっている。
保守的な父をもつニコラスは、アミンの中に理想の父親像を見出した。それを察したアミンは、「君は私の息子のようなものだ」と抱きしめる。アミンの獣性を目の当たりにしたニコラスは、泣きながら帰国を乞うが聞き入れられない。アミンは言う。
「君は私からはなれられない。なぜなら、私を愛しているからだ」
権力者に惹きつけられ、権力者に支配される陶酔を描くこの場面は、ラブシーンのようだ。
基本的には善良だが、ニコラスはあまりに無邪気だった。ウガンダについて、アフリカについて何も知らず、エキゾチックな憧れだけがある。彼は無知だった。その無知ゆえに、手痛いしっぺ返しを食らうことになる。彼とアミンの関係は、西欧とアフリカの縮図だ。
監督のケヴィン・マクドナルドは、ミュンヘン・オリンピックのテロ事件を題材にしたドキュメンタリー「ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実」でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞し、続く「運命を分けたザイル」は日本でもスマッシュ・ヒットした。
本作が初めての劇映画だが、ドキュメンタリー畑だけあり、フィクションと歴史的事実をうまく調合している。殊に、海外諸国がアミンの恐怖政治に目を向けるきっかけとなったエンテベ空港ハイジャック事件を、クライマックスに用意するくだりがうまい。
「ホテル・ルワンダ」をはじめ、アフリカを舞台にした意欲的な映画がこの数年に続々と製作されている。その1本である本作はウガンダで初の映画撮影が行われた作品でもあり、監督ら製作陣はムセベニ現大統領と面会して「アミンを知らない若い世代にあの時代を伝えるために」と、全面的な協力を得た。
映像特典に収録されているドキュメンタリー“イディ・アミンの肖像”には、試行錯誤のウガンダ・ロケの様子が関係者インタビューとともに映し出されている。ニコラスのモデルとなったアミンの主治医や、当時の大臣、アミンに父親を殺害されたスタッフの証言などが盛り込まれ、映画で描かれる出来事は決して過去の話ではないのだと訴えてくる。
そして、フッテージ映像に残るイディ・アミン本人は、フォレスト・ウィテカーに負けないほど魅力的で、チャーミングな笑顔を浮かべている。
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