ITmedia NEWS >

オーディオの作法麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2008年12月03日 19時13分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

健闘するCD

麻倉氏: 日本は世界的に見てもCDが健闘している数少ない国ですが、ここに来てさらにその度合いが高まったように感じられます。SHM-CDやHQCDといった新素材系CDが人気を博しつつありますし、最近ではBlu-ray Discの製造技術を用いたBlu-spec CDも登場しましたね。

photo

 レコード会社としては新譜のヒットも大切ですが、ビジネス的な側面からすると旧譜の活性化がきわめて重要です。これまで旧譜はイベントや企画モノとからめてアピールされることが多かったのですが、音質による訴求がここまでの人気を博すということに正直、驚いています。「高音質CD」という1つのジャンルを確立するかのような勢いですね。

 フォーマットとしては同じCD-DAですが、SHM-CDは柔らかさ、HQCDは高い解像感といった特徴を持ちます。いずれにせよ、これらは高い音質を誇るのですが、この高音質という要素へ市場が反応するのが世界における日本市場の強さでしょう。ハードウェアで言い換えれば、5万円ではなく10万円のスピーカーを好み、楽しむという市場ともいえるます。音楽の根底にあるニーズをうまく刺激したのがこれらの製品ですね。

 10年ほど前もアートンという樹脂を利用した高音質CDが少しヒットしたことがあります。これは一般的なCDが持つキツさや人工っぽさを緩和して、やわらかくするという方向性でした。対して、最近登場した高音質CDはいずれもベールを2〜3枚脱いだような、解像力の高いカッチリとした音になっており、そうマニアックではないシステムで聞いてもその違いは分かります。これまでの再生システムで、メディアが違うと音も違うとなれば、マニアにはたまりませんね。

 SACDについても興味深い動きがあります。それはエヌ・アンド・エフが押し進めるSACD/CDハイブリットディスク廃止の動きです。これまでSACDという新フォーマット普及のためにはCDプレーヤーにも掛かるハイブリットメディアが有効であると言われていましたが、実は「ハイブリット」というメディアに成功例はほとんどないのです。

 例えば分野は違いますが、かつてビクターはカムコーダー用のメディアとして大成功したVHSとの両用性を持つVHS-Cを出しましたが、結果的には、VHSと互換性がないソニーの8ミリビデオが勝利しました。最近の次世代DVD戦争でも、従来からのDVD互換性、共用性を訴えたHD DVDが、非連続を追求したBlu-ray Discに敗北しました。つまりユーザーは新フォーマットへ、新世代の革新的な体験を求めているということです。

 SACD/CDハイブリットディスクのもうひとつの問題は、それがCDであるために、ショップが「SACD」の棚を作らなかったことで、さらに大きな問題は音質です。ハイブリットディスクはSACD層へレーザー光を当てるためにCD層を透過させる必要があります。CDですら素材を変えると音が変わるのですから、このような構造のディスクが音がよい訳がありません。SACD層もCD層から反射の悪影響をダイレクトに受けています。つまりハイブリットディスクはSACD本来の音質を実現できていなかったのです。

 エヌ・アンド・エフからは、ピアニスト 神谷郁代さんなどの作品がシングルSACDでリリースされています。これらはSACDの良さであるつやっぽさや空気感をとても上手に表現しています。これまでいまひとつぱっとしなかったSACDですが、高音質CDがヒットする現在ならば、SACD本来の音質を前面に押し出すアプローチは受け入れられそうですね。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.