印刷された反射パターンは、ナノ(10億分の1メートル)単位の無数の微粒子からなるホワイト・ドットの集合体で、直進性の強いLEDの光の屈折と反射をコントロールし、遮光パターンフィルムとの組合せで各エリア内で光を均質化して拡散板に導くという仕組みだ。LEDと拡散板の距離が近ければ近いほど光をうまく散らすことができないわけだが、ここで達成された反射パターン印刷と遮光パターンフィルムの組合せによる光制御法こそが、今回のバックライト・モジュール開発のハイライトといっていいだろう。
LGエレクトロニクスは、その傘下に液晶パネルを供給する『LGディスプレイ』、偏光板などの光学部品を製造する『LGケミカル』、LED バックライト・モジュールを開発する『LGイノテック』という3つの会社を持つ。今回の「NANO FULL LED」開発は、LGエレクトロニクスを加えた4社で緊密に連係して技術的課題を1つずつ解決していったのだという。なるほどLZ9600の極薄パネルの誕生は、巨大な複合企業LGグループならではの垂直統合型開発のたまものといっていいだろう。
最近買ったBlu-ray Discの映画ソフトでその画質のよさに感銘を受けた「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」を55V型の55LZ9600で観てみた。本作はビートルズの前身にあたるクォリーメン結成までのジョン・レノンの青少年時代を描いた映画。自分を産んだ実の母親と育ての親である伯母との間で揺れ動く若き日のジョンの繊細な感覚をみごとに映像化した作品だ。
55LZ9600の「映画モード」で観る本作の魅力は、ウォーム・トーンで描く1950年代末のイギリス・リバプールの風景にある。うっ屈したジョンの心象にそっと寄り添うような温かみのある色表現がすばらしい。「映画モード」のデフォルトの色温度は8000ケルビン(W25)相当だが、それを6500ケルビン(W50)まで落すことで、よりいっそうリアルで生々しいスキントーンを得ることができた。
また、液晶テレビの常識を覆す夜の屋外シーンでの安定した漆黒の表現には誰もが驚かされることだろう。視野角は広いが正面コントラストで劣るIPSパネルのローカルディミングの採用が、液晶テレビ高画質化のベスト・ソリューションだと改めて実感する。
少し気になったのが、そのLEDバックライトの部分制御のクセっぽさ。シーンチェンジでローカルディミングの動作が追いつかず、画面全体の輝度が大きくシフトする場面が散見された。このへんは経験豊富な日本メーカーに一日の長あり、かもしれない。
しかし改めて言うが、この薄さでこのハイコントラスト映像は驚異というほかない。あとは絵づくりのセンスをどう鍛えていくか。LG TVの今後に大きな期待を寄せないでいられない。
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