Mobile:NEWS 2002年6月5日 01:56 AM 更新

アーム、ARM11のテクニカルブリーフィングを開催

英ARMホールディングズと日本法人のアームは、ARM10Eベースの新プロセッサコアに関するブリーフィングを開催、ARM11のロードマップも明らかになった

 英ARMホールディングズとその日本法人アームは、4月29日に発表されたARM10Eベースの新プロセッサコア「ARM1026EJ-S」および次世代ARM命令セットとコアのマイクロアーキテクチャ「ARM11」に関するテクニカルブリーフィングを開催した。

 ARM1026EJ-SはARM10EのアーキテクチャにJavaバイトコードのハードウェア実行機能「Jazelle」などの拡張を施したもので、Jazelleを最初に実装したARM926EJ-Sの機能強化版になる。ARM926EJ-Sコアを利用したプロセッサはライセンス先から出荷されようとしている矢先だが、ARM1026EJ-Sはその上位版となる。ライセンス先への提供開始は、今年第3四半期になる見込み。

 ARM1026EJ-SはARM10EにJazelleを追加した上で、ベクタ割り込みのサポートが行われている。またメモリ保護機能の追加や、外付け浮動小数点ユニットのサポートも特徴となっている。0.13ミクロンプロセスでの実装では、ワーストケースでも266〜325MHz(325〜400MIPS)で動作。最適化により、さらに高速な動作も見込める。

ARMとモバイル機器の遠くて近い関係

 ARMといえば、インテルのStrongARMやXScaleの名を挙げる者が多いだろうが、ARMはそれ以外にもさまざまな分野でも、消費電力あたりのパワーを最大化できるアーキテクチャとして応用されてきた。PDA、携帯電話などのモバイルデバイスはもちろん、ブロードバンドルータ、あるいはエンジンマネージメントやABSなどのカーエレクトロニクス分野などでも高いシェアを誇る。

 目にする機会の多い"ARM"ブランドだが、一方でどのようなものなのか、今ひとつわかりにくいと感じる方も多いはずだ。なぜならARM自身はエンドユーザーが利用する具体的な製品を製造しているわけではないからだ。ここで少し、ARMのビジネスモデルについて前置きをしておきたい。

 ARMは低消費電力でハイパフォーマンスなプロセッサを設計可能な独自命令セットを元に、その命令セットを処理するプロセッサコアの設計し、ほかの半導体ベンダーにライセンス供与するビジネスを行っている。

 プロセッサコアの設計をライセンスするビジネスが基本であるため、実際の半導体チップをARMは製造していない。実際に半導体チップとして製品化するのは、ライセンス先ベンダーなのである。ライセンス先はARMの設計したコアをベースに、ネットワーク処理や携帯電話向けの機能などを統合し、さまざまな用途向けプロセッサとして製品化する。

 たとえば冒頭で紹介したARM1026EJ-S(ARM10Eファミリ)とARM926EJ-S(ARM9Eファミリ)は、異なるプロセッサコアの設計を採用しているが、命令セットはARM v5TEJという同じアーキテクチャである。違いはプロセッサコアの設計で、ARM10EファミリのARM1026EJ-Sの方が高クロック化を行いやすい。

 ARMは回路設計を、半導体設計用CADのスタンダードなセル(半導体回路の設計単位)を組み合わせて行うため、ライセンス先はその設計をベースにほかの機能を統合したり、細かな改良を施すことができる。このため、ARMベースのプロセッサがどの程度の速度で動作するかは、設計を半導体に実装する時の具合によって差が出る。また、どのような製品にアレンジして仕上げるかは、半導体ベンダー自身によって異なるわけだ。

 たとえばARM926EJ-Sは昨年リリースされたコアだが、実際の半導体として実装され、製品として出荷されるのはこれから。新しいARM1026EJ-Sも、同様にライセンス先が実際の製品に組み込んでから出荷されることになる。

 したがって、これから登場してくるARM926EJ-Sを元に設計された携帯電話用チップを採用する携帯電話が登場すれば、95%のJavaバイトコードをハードウェアで実行できるJazelleにより、Javaアプリケーションの動作速度が大きく向上することになるだろう。しかし、そうした携帯電話が登場するまでには、まだ少しの時間がかかる。ARM1026EJ-Sベースのチップを採用した携帯電話ともなると、さらに半導体ベンダーが製品を設計するプロセスが間に入るため、ユーザーの元に最終製品として登場するのは、まだまだ先のことだ。

 ARM11ベースの製品ともなると、ARM11自体がまだプロセッサアーキテクチャの段階で、プロセッサコアの設計を行っているところ。ARM側の設計が完了し、ライセンス先に提供が開始されてから半導体を設計し、それを採用する製品が開発されるというプロセスを経る。

 ARMはモバイル機器やさまざまなネットワークアプライアンスと密接な関係にあるが、ARMの新製品(新しい設計)が即、数日後の新製品に反映されるわけではない。しかし、将来のモバイル機器の機能や性能を大きく左右する存在なのだ。

マルチメディア性能を大きく向上させたARM11

 さて、そうしたことを踏まえた上で、ARM11の紹介をすることにしよう。ARM11は新しくSIMD演算機能を持つメディア処理命令を追加したARM v6命令セットを最初に実装したプロセッサコアのマイクロアーキテクチャである。ARM v6は、DSP命令やJazelleなどをサポートするARM926EJ-SやARM1026EJ-Sが採用しているARM v5TEJの次の世代に相当する。もちろん、ソフトウェアの下位互換性は保たれている。

 ARM11の特徴はメディア処理命令の追加、例外処理の改良、ベクター割り込みのサポート、OSのコンテクストスイッチ速度を改善するメモリ管理アーキテクチャの変更などだ。また最新の製造プロセスに合わせて、消費電力対性能比が最大になるように最適点を狙った設計を行っているという。

 ARM11は現在設計中のマイクロアーキテクチャだが、その性能目標はARM10Eの1.4倍の動作クロック周波数(ワーストケースで350〜420MHz以上)を実現し、一方で1MHzあたりの消費電力を0.4ミリワットに抑えることだという。クロック周波数あたりの速度はARM9レベルが維持される見込みだ。

 パイプラインは8段に拡張される(ARM9Eで5段、ARM10Eで6段)が、パイプラインのストールによる性能低下を極力なくすため、動的な分岐予測アルゴリズムを組み込んだ。ARM10Eの静的分岐予測が70%程度の精度だったのに対して、ARM11では85%程度まで予測精度が向上するという。

 メディア処理命令は主にインテルのMMXなどに代表されるSIMD命令で構成されており、動画再生の動き補償演算は従来の約2.5倍、MPEG-4再生全体の負荷で比較しても2倍以上の性能を発揮しているという。

 またARM v6では割り込み応答性を改善させるため、割り込みルーチン開始までの命令シーケンスなどを行う命令が追加され、割り込み処理開始までの遅延を従来の35サイクルから11サイクルに短縮。リアルタイム性能を向上させている。

 さらに必要な時以外に回路にクロックを入れないクロックゲーティングの技術を全面的に採用。95%以上のロジック回路がクロックゲーティング可能になっている。割り込み待ちの新命令を追加し、すべてのクロックを停止させ、割り込みがあるまで待機するモードを追加するなどの工夫も行った。

 ARM11ベースの製品が携帯電話やPDAに搭載されるようになるには、まだまだ時間が必要だろうが、第3世代携帯電話やホットスポットの普及など、広帯域のワイヤレスモバイル環境が整う頃には、知らず知らずのうちに我々が利用する製品に組み込まれていることだろう。

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[本田雅一, ITmedia]

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