News 2001年2月13日 07:56 PM 更新

電灯線インターネットの敵は冷蔵庫?

九州電力が事業化に向けて検証を続けている電灯線を使ったインターネットアクセス。課題をクリアすれば,最大20Mbps程度のスループットを実現できるという。その課題とは?

 電力の自由化によって経営の多角化を迫られた電力会社は,自社の持つ光ファイバー網と電柱を使い,広帯域インターネット接続事業を進めようとしている。東京電力が参画しているスピードネットがその先駆けといえるが,北海道電力や九州電力など幾つかの電力会社は,各家庭に引き込まれている低圧配電線(宅内のコンセントに繋がる電灯線のこと)の活用も検討中だ。ルート主催のセミナーで,九州電力の嘉村晃也太理事が同社の取り組むブロードバンドサービスを紹介した。

 電力会社の多くは,電気設備の管理に利用するために光ファイバー網を構築している。嘉村氏によると,九州電力も既に総延長5000〜6000キロの光ファイバー網を所有しているという。最近,福岡市と北九州市で敷設作業が終了し,「70〜80万世帯をカバーできる」(嘉村氏)状態だ。また,2001年度には県庁所在地級の都市に,さらに2003年頃までには10万人レベルの都市へネットワークを拡大する予定であり,総延長距離は約2万キロに及ぶ見込み。「2003年には350万〜400万世帯をカバーする光ネットワークが完成する。これは,全体(九州電力のサービス地域)の60%弱にあたる」(嘉村氏)。

問題は電気的ノイズとインピーダンス

 九州電力は,この光ファイバー網を使い,事業化を前提としてブロードバンドインターネットアクセスの検証を進めている。アクセス回線として検討されているのは,前述の低圧配電線,無線(WLL),そしてFTTH(Fiber to the Home)だ。このうち,最も低コストかつ手軽に事業化できるのは,やはり敷設済みの電灯線を利用すること。「宅内配線が不要であり,しかも端末は半導体技術の進歩によって低価格化が期待できる」(嘉村氏)。電灯線を使う技術としては,家電製品のコントロールが可能になるエコーネットが知られているが,同社は,競争力を高めるため,高速化の方向を検討中だ。

 しかし,低圧配電線を利用する方式では,既に幾つかの問題点も明らかになっている。「今,分かっている障害は,狭帯域ノイズと低インピーダンス。宅内でインバータ家電を使用すると,特定の周波数帯に雑音が発生する」という。具体的には,190KHz付近に冷蔵庫,100KHz以下にインバータ照明,また150KHz帯以下に掃除機のノイズが集中し,しかもバースト的に発生する特性があるという。「特に,常時電源の入っている冷蔵庫が問題だ。他の家電なら,使用する時間を避ければよいが,冷蔵庫だけはそうもいかない」(嘉村氏)。

 そこで九州電力では,マルチキャリア伝送方式(OFDM方式),高速トレーニングによる最適化,誤り訂正方式などを組み合わせることにより,ノイズによるスループットの低下を防ごうとしている。マルチキャリア伝送とは,搬送波(キャリア信号)ごとにデジタル制御をかけ,ノイズの大きい周波数帯を避けて伝送する技術。SNRモニタで状況を把握し,ノイズを検知すると搬送波を制御して転送速度を変更するのがトレーニング機能だ。これらの技術により,2000年10月に福岡市内で開始された試験サービスでは,低圧配電線を使って約1.5Mbpsのスピードを実現した。

 さらに,低インピーダンス対策としては,三菱電機などが開発中のインピーダンスアジャスタを利用することが検討されている。それぞれの家電に合ったアジャスタがあれば,低インピーダンスとノイズの両方を抑制できるわけだ。

周波数を広げれば最大20Mbpsも可能

 嘉村氏は,もう1つの課題として周波数帯の割当を挙げた。同社が三菱電機と共同で開発している現仕様では,10K〜450KHzの周波数帯を使用しているが,より高い2M〜30MHzの周波数帯を利用できれば「最大10M〜20Mbpsまで高速化できる。しかも,この帯域は家電ノイズの影響が小さい」(嘉村氏)。実際,4月には10M〜20Mbpsの実証実験が米国で始まる予定だが,日本ではこの帯域を短波ラジオとアマチュア無線が使用しており,使えない。干渉する危険性が高いため,送配電線に10KHz以上の信号を重畳する場合は,電波法によって規制されているのだ。

 ただし,米国やアジア圏で送配電線を使ったアクセス回線の研究が進んでいることを受け,総務省総合通信基盤局は電灯線通信に関する研究会を設置する意向を明らかにしている。九州電力でも,実証試験の結果をもとに2MHz以上の技術開発を検討していく方針だ。将来的には,この周波数帯が開放される可能性もあり,実用化されれば電灯線アクセスがDSLやFTTHに匹敵する,有望な“ファースト・ワン・マイル”になることは間違いない。

 なお,九州電力では2001年の事業化を目指して各アクセス回線の検証を進めていくという。当初はWLLと低圧配電線を使い,スループットは1.5Mbpsになる見込みだ。提供料金は,定額制・月額5000〜6000円をターゲットとしている。

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[芹澤隆徳, ITmedia]

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