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2004/03/04 01:05 更新

小説
ファースト・プレゼント〜ペンの物語 <3> (2/2)


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 「私、学生の頃、海に行って、サーフィンをする人たちを眺めているが好きだったんです。自分でもちょっとやってみたんですが。やっぱり浜から海を眺めている方が好きで。田嶋さんもよくサーフィンをしないで、海を眺めていましたよね。あの頃は名前も知りませんでしたけど、顔は忘れなかったんです。私、あの頃、田嶋さんの事、ちょっといいなって思っていたんです。もちろん今はあくまで上司として、尊敬できるといいなと思ってますけど」

 とちょっと悪戯っぽい目でそう言って席を立つと

 「今日はこれで帰ります。まだ時差ボケが直ってなくて眠いんです。年明けに会社でお目にかかります。そうそう、タブレットPCちゃんと設定しておいてくださいね」

 そう言って店を出てしまったので、あわててすぐに後を追ったのだが、それほど人の歩いていない一本道なのにすでに姿が見えなかった。そのとき気がついた。「しまった。名前も聞かなかった」

 部屋に戻って、早速、タブレットPCをデスクの上に出してみた。やっぱり齋藤の持っているものと同じだ。しかし、手にしてみて驚いた。見た目も軽そうだったが、想像以上に軽くてこれなら持ち歩きながら作業ができそうだな、と感じた。段ボール箱には本体以外には、キーボードのついたドッキングベイといくつかのケーブル類、本体のイラストに簡単な説明が書かれた一枚の紙が入っているだけだった。

 キーボードはつながずに電源ケーブルをつなぎ、本体側面にある電源スイッチを入れてみた。最初にペンでサインを要求するメッセージが出てきた。本体に差し込まれていたペンを探すのに手間取ったが、無事に名前を書き込むことができた。少しして、画面に「ようこそ! 田嶋逸郎さん」とメッセージが出た。普通にOSが起動し、メールの設定をして、インターネットに接続したところで、ほどなくメールが届いた。

 「さきほどは失礼しました。無事にメールが取れるところまで来たみたいですね。入力はペンでサインしなければ、ログインできないようにしていたので、ペンを使っているんですね。もしかして田嶋さんはペンの方が向いているのかしら。それでは」

 メールは彼女からのものだった。これも送信者欄が空欄になっていた。彼女は名前を明かさないつもりなんだろうか?

 翌日は会社の仕事納めだった。営業の僕らは例年ならキャンペーンが年末ぎりぎりまであって忙しく酒屋を回るのだけど、予算の関係など、もろもろの事情でクリスマスのキャンペーンで終了してしまった。キャンペーン・コンパニオンとの出会いを楽しみしていた齋藤は本当にがっかりしているようだった。納会では、課長も部長もさっさと酔っぱらってしまい、異動の話は聞けずじまいだった。

 いつものように年の瀬がやってきて、祐さんの店で遅いクリスマスと忘年会をかねた宴会で大晦日を過ごした。この数年はみんなを見送っていた僕だったが、もしかして彼女に会えるのでは、という小さな期待もあって、みんなと海に出たが、彼女の姿を見ることはできなかった。そのまま、なにをどうということもなく、静かな正月休みが終わった。


 仕事始めの日、人より早く出社した僕は、彼女が出社するのを心待ちにしていた。部署の全員が揃ったところで、ようやく部長が出社してきた。新年の挨拶を終えたところで、部長が

 「田嶋ッ! おまえここで一体何をやってるんだ。新部署の結成式が今頃、始まっているぞ。一応、籍はそのままこの酒販事業部だけど、おまえは今日からソフトウェア事業部付きなんだぞ。早くいけっ」

 みんなは周りでクスクス笑っている。まったく何がなんだかわからない。知らないのは僕だけかっ。あわてて廊下に出て、隣の新館に開設されたはずの新規事業部に向かった。新館へのブリッジへの曲がり角で出し抜けに彼女に出くわした。

「田嶋さんを呼んでこいって言われたんだけどよくわからなくて。よかったっ。あ、そうだ。女性社員のみなさん、着物を着てますけど。着物の方がよかったかなぁ。田嶋さん、どう思います?」

 と、きわめてシンプルだけど、どこかエレガントな感じのするパンツスーツの彼女はそう聞いてきた。「そりゃ、仕事始めの時の女性は振り袖の方がいいような気はするけどな」と僕が言うが早いか「やっぱりそうですよね。じゃぁ、先に行っていてください」というと廊下を駆けていってしまった。ぶつかりそうになったからか、走ってきたからなのか、それとも………。妙に心臓がバクバクいっていた。

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写真:チバヒデトシ、モデル:Chiro

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