Pentium 4の時代にはモバイル向けでも重厚長大だったIntelのCPUで、いわゆるモバイル向けに最適化された製品は“Banias”ことPentium Mの登場を待たなければならなかった。当時は、デスクトップPCがノートPCを台数で上回っていて、ノートPCもA4サイズ以上のモデルが多かった。そのころ、B5サイズのノートPCや薄型小型のミニノートPCが注目され、ノートPCの普及率が50%を超えていたのは日本くらいだった。だが、IDF2日目のキーノートスピーチに登場した米IntelのIntel Architecture Groupジェネラルマネージャー 兼 エグゼクティブバイスプレジデントのダディ・パルムッター氏によれば、よりファッショナブルで小型・薄型な「クール」なPCをイマドキのユーザーは求めているという。
ユーザーが求める「クール」とは外見だけではない。処理スピードだったり、バッテリーの持続時間であったり、コストであったり、あるいは、どこでもインターネットに接続できるネットワーク環境であったりと、実用的な要求も当然ある。これらの技術的な制約を少しずつ解決していくのが、ノートPC市場におけるIntelの課題だ。「Westmere」世代でCPUの低コスト化と高性能化を両立させ、続く「Sandybridge」世代で性能を向上させることは、モバイルを重視するノートPCが普及するための技術的障害を取り除く強力な味方となるだろう。
パルムッター氏は、ノートPCの使い方でも改善が進んでいるという。その実例として、3枚のサブディスプレイを搭載するノートPCが紹介された。Intelが開発したこのコンセプトモデルは、キーボードとメインディスプレイの間にタッチ操作に対応した3枚の小型パネルがサブディスプレイとして搭載され、ウィジェットを表示するほか、操作用のコンソールとしても利用できる。全部で4画面の表示を1つの統合型グラフィックコアで処理しているという点も、パルムッター氏は重要な機能としてアピールした。
IntelはNetbookとMIDにも力を入れている。Netbookは順調に普及したが、なかなか展開していかないのがMIDだ。Intelは、MID向けCPUとしてAtom(Z番台)を投入しているが、Netbookほどには普及していない。理由はいくつか考えられるが、小型デバイスへの搭載を想定しているにもかかわらず、通常のPCと同じ3チップ構成のプラットフォームを提案している点が大きく影響しているだろう。2010年に登場が予想される「Moorestown」では、CPUにグラフィックスコアを統合して構成チップの数を減らすほか、Power Gateと呼ばれるNehalem世代で登場した技術を導入し、アイドル時の電力消費を極限まで落とし込むことで、バッテリー駆動時間を延ばすとしている。さらに、Moorestownの次に登場する「Medfield」は、32ナノメートルプロセスルールに移行することでダイサイズを縮小し、これによりCPUの製造コストが下がることも期待されている。Medfieldまで1年以上も先の話になるが、MIDが普及のための下地は整いつつあるといえるかもしれない。
モバイルデバイスでもう1つ重要なのが「どこでもインターネット」を実現する無線接続環境だ。Wi-Fiの利用や3G携帯を介した接続など、さまざまな手段が模索されているが、Wi-Fiでは接続場所が限られ、3G携帯電話では遅い通信速度と高い接続コストに悩まされる。米Cisco Systemsの調査によれば、1台のノートPCで発生するトラフィックは15台のスマートフォン、あるいは450台の通話を目的とした携帯電話の通信量に匹敵するという。通常の携帯電話インフラでは帯域が完全に足りない。そこで期待されるのがWiMAXとなる。
日本ではUQコミュニケーションズがWiMAXサービスを提供しているように、米国やアジアの各地域でモバイルWiMAXの商用サービスがスタートしている。ノートPCにWiMAXモジュールを付属したモデルを出荷するPCメーカーも登場するなど、WiMAXも少しずつ普及が進んでいくだろう。だが、本格的に普及するためにはWi-Fiがそうであったように、Centrinoのような統合プラットフォームでIntelがWiMAXを標準採用する必要がある。すでに準備は整いつつあり、2010年の「Kilmer Peak」で通信モジュールにWiMAXが統合される。このほかにも、GPSや各種通信関連機能を統合する計画があるということで、ノートPCを高機能スマートフォンのように使える日も近いだろう。
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