PUPdate流 HDD大研究

■MP3野郎に捧ぐ! 大容量デジタルミュージックライフのススメ1〜解説編〜(2/2)

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MP3にもデメリットはある

 MP3によって、PCやインターネットを利用して音楽を楽しむという習慣が急速に普及してきたことは間違いない。しかし、MP3も良い面ばかりというわけではない。

 というのも、MP3のような“圧縮オーディオ”は、利便性は高いけれど、“音質”という面で見れば、元データより確実に劣化しているからだ。ソースとして利用されることの多い音楽CDとの比較で、これをちょっと考えてみよう。

 音楽CD(CD-DA)の仕様は、データのサンプリング周波数が44.1kHz、量子化ビットは16ビットというものだ。1秒間を75のフレームに分割してデータが収録されており、1フレームのデータサイズは2352バイト。つまり毎秒約172.26Kバイトのスピードで音楽データを再生していることになる(注1)。

 1曲3分間として、その音楽データのサイズは、2352バイト×75フレーム×60秒×3。Mバイトに換算すると、約30.28Mバイトという大容量だ。ストリーミングでこれを流せば、1.345Mbps程度の帯域幅が必要になる。とても気軽に扱えるものではない。

 そこで、MP3では人間の耳に聞こえにくい音を間引くことで、データサイズを圧縮している。例えば大きな音が鳴っているとき、その周波数に近い小さな音は聞こえにくい(マスキング効果という)から、これを間引いてしまう。人間の耳では聞き取りにくい高い周波数や低い周波数も同様。聞こえにくいのだから、間引いても人間の耳では音質の劣化を感じないはずという理屈だ。

 ちなみにこのMP3という圧縮方式では、元のCD音楽データを10分の一程度に圧縮する「128Kbps、44.1kHz、16ビット」までであれば、人間の耳には元のCD並みの音質に聞こえるとしている。

 だが、それは本当だろうか。

 一番良いのは、実際に元の音楽CDの音と、MP3で圧縮した“CD並みの音”を聴き比べてみることだ。ある程度の再生環境で聴けば(最近はPCオーディオのクオリティもずいぶん上がってきた)、MP3の音が何かスカスカした音であることがはっきりと感じ取れてしまうはずだ。聞こえない音しか間引いていないはずなのに、それが感じ取れてしまう。このあたりが人間の耳の面白いところだ。

 MP3でビットレートを上げ(つまり圧縮率を下げ)、160Kbps、256Kbpsとしていっても、確かに音は良くなるが、この現象に変わりはない。MP3のように元データを不可逆的に「圧縮した音」は、どうやっても元の音(この場合、音楽CDのクオリティ)を超えることはできないのである。

 MP3のことを悪く言うつもりは毛頭ない。携帯プレーヤーで手軽に音楽を楽しむのであれば、MP3は悪くない規格だ(他にも良い圧縮規格はあるが)。嫌な音トビもない。しかしPC上に音楽データをためて、良い音で聴こうとするなら、MP3の音では「どうにも物足りない」――耳の良いユーザーなら、間違いなくそういう結論に行き着くはずだ。


MP3は多くの音楽再生プログラムが対応している。例えば、Windowsであれば標準のWindows Media Playerでも再生できる

より良い音を追求していけば、ファイルサイズは大きくなる

 では、PCでより良い音を追求するにはどうしたらよいか。例えば、音楽CDを本当の意味でCDのクオリティで聞きたいとしたら。

 一つの答えは、PC用のCD/DVDドライブで音楽CD自体を再生することだ。現在のCD/DVDドライブのほとんどは、音楽CDの規格であるCD-DAに対応している。だが、それではいちいちディスクを入れ替えたりと、オーディオ用CDプレーヤーで聞くのとほとんど代わりがない(しかもその割に、オーディオでの再生に比べて音は必ずしも良くならない。PCには音を劣化させる要因に事欠かないからだ。あえて言えば、PCだけしかない環境でも音楽が聴ける手軽さが取りえだろう)。

 もう一つの答えは、音楽CDの元データを、手を加えることなく、コンピュータ上にストレージしていくことだ。単純に言えば、非圧縮のまま扱うのである。

 もともとさまざまなPCのシステムでは、標準の音声ファイル形式というものが存在する。Windowsで言えば「WAV=Windows Audio」、Macなら「AIFF=Audio Interchange File Format」、UNIXなら「AU」などがよく知られている。

 このWAVやAIFFといったファイル形式は、元々アナログの音声データをデジタル化して扱うのに開発されたという経緯があり、要はベタなPCM(Pulse Code Modulation)のデータファイルである。MP3のような圧縮は基本的に行われていない。

 このPCMファイルの音質は、毎秒何回のサンプリングを行うのかというサンプリング周波数と、そのサンプルをデジタル化したときに何ビットにするのかという量子化ビット数によって決定される。

 簡単に言えば、「44.1KHz、16ビット、ステレオ」の音楽CDデータ(これもPCMデータだ)をリッピングしてコンピュータ内に取り込んだ際、「44.1KHz、16ビット、ステレオ」のWAVファイルとすれば、HDD内で等価(同品質)のものとして、保存できるのである(当たり前だが、周波数やビット数を落としていけば、WAVファイルだろうがなんだろうが、音のクオリティは大きく落ちる)。


オリジナルで4分間の曲をWAVファイルで保存すると約40Mバイトの大きさ。これがMP3なら約4Mバイトになる。サイズの違いと「音」としての価値はユーザーによっても異なるはずだ

 後はサウンドカードやUSBスピーカーなど、音の再生の仕組みを整えてあげれば、本当の意味でCDクオリティの音で音楽を鳴らすことができるだろう。

 ただ、MP3や最近流行しているWMAなどの圧縮規格で保存したファイルと違って、ファイルサイズがやたらと大きくなることは覚悟しなくてはならない。音楽CDのデータと品質が等価ということは、ファイルサイズだってほぼ同レベルになるからだ。

 音楽CD1枚で、だいたい500Mバイトから650Mバイトというのが平均的なところ。30GバイトのHDDを搭載したiPodなら、それでも同品質のWAV形式で音楽CDアルバムを40〜50枚程度は保存できるが、もうそれでいっぱいいっぱいだ。

 そこで求められるのが、ストレージのさらなる大容量化。200Gバイトもあれば、アルバムにして350枚分ぐらいは楽々蓄積できる。外付けドライブなら、持って行った先にハイパフォーマンスのPCやそこそこいいサウンドデバイスがあれば、MP3の比ではない「良い音」で鳴らせるだろう。例えば、パーティなどのBGMで使うといった使い道も考えられる。これだけあれば、選曲は自由自在だ。

 加えて外付けHDDの場合、電源もPCとは別に取ることができるので、電源の供給を安定させられるという利点もある。良い音を求めるなら、CDドライブにしろ、HDDにしろ、内蔵より外付けのほうが望ましいというのは、PCオーディオファンにとって、実は“常識”なのである。

 では、次回はMP3で圧縮したファイルと、音楽CDのデータを圧縮しないまま保存したファイルの品質を実際に比較した上で、大容量のHDDであればどんな良い音が追求できるのか、もうちょっと深く突っ込んでみよう。


ポータブルで大容量なPersonal Storageなら、本当の意味でCD品質の音楽データを、アルバムにして300枚以上持ち運ぶことが可能だ

注1、ちなみにデータCDでは音楽CDの1フレームにあたる1ブロックが2048バイト。だから等倍速のCD-ROMのデータ速度は毎秒150Kバイトになる。

(記事内容に一部問題があったため、当初掲載の原稿を差し替えました。読者の皆様には深くお詫び申し上げます)

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