CEATEC:電灯線はホームネットワークに使えるか?

CEATEC JAPANで松下電器産業の後藤健氏が,低圧配電線を使ったホームネットワーク規格「HomePlug」の現状を語った。

【国内記事】 2001年10月4日更新

 今年6月26日,約90の企業が参加する業界コンソーシアム「HomePlug Powerline Alliance」が「HomePlug 1.0」を公開した(6月の記事を参照)。HomePlugは,宅内の低圧配電線(電灯線)をネットワークメディアとして利用する新しい規格。「CEATEC JAPAN 2001」で,松下電器産業の主任技師であり,ARIBの電力線搬送通信設備開発部会にも籍を置く後藤健氏がHomePlugの現状を語った。

 HomePlugは,米Intellonの技術をベースにした「家庭内のみを対象とした高速電灯線通信方式」(後藤氏)。4.3MHz〜20.9MHzの周波数帯を使い,最大13.75Mbpsの伝送速度を実現する。松下電器産業では,既にエコーネット対応製品を出荷しているが,一方で「エコーネットではブロードバンドにはほど遠い」(後藤氏)のも事実。高速なホームネットワーク技術として,HomePlugに注目しているという。

HomePlugのネットワークイメージ図。建物の階をまたいだネットワークが構築できるのもメリット

電灯線利用のデメリット

 電灯線ネットワークの最大のメリットは,新規に配線する必要がないという点だ。しかし,「電灯線はもともと電力を伝達するものであり,通信のために作られたものではない」(後藤氏)ため,デメリットも多い。実際,電灯線は周波数帯域によって異なる減衰特性を持ち,“null点”と呼ばれる全く通信できない低インピーダンス部分も存在する。その上,コンセントに延長コードや電化製品を繋げば配線を変えることになり,「(ネットワークの)トポロジーが予想できないうえ,線の長さも分からない」(後藤氏)という。

グラフが落ち込んでいる部分がnull点

 電気製品を使うと,途端に伝送路上に雑音が発生するのも問題だ。下の図は,電子レンジにスイッチを入れる前と後の伝送路雑音を示したものだが,20MHzをピークに大きな雑音が発生しているのが分かる。

電子レンジを使うと伝送路上に雑音が発生する

 こうした点をクリアするため,HomePlugではマルチキャリア伝送方式(OFDM方式)を採用し,加えて雑音や減衰率の大きなチャンネルを使わない仕様となっている。搬送波を「歯抜け」にして雑音を避けるわけだ。さらに,数秒に一回,各ノード間でチャンネル状況を確認。雑音の影響を受けたときは,FEC(Forward Error Correction)によって訂正する仕組みを備えた。

規制緩和はいつ?

 雑音や低インピーダンスの問題をクリアしても,現状ではHomePlugを国内で利用することはできない。前述のように,HomePlugは4.3MHz〜20.9MHzの周波数帯域を使用するが,ここにはアマチュア無線などが使う周波数帯が含まれているためだ。日本の電波法では,電灯線通信が利用できる周波数帯は10〜450KHzに限られている。

各地域で電灯線通信が利用できる周波数帯

 こうした電波関連の規制に対応するため,HomePlugでは特定のチャンネルをマスクすることができる仕様を組み込んだ。後藤氏によると,「アマチュア無線バンドはキャリア(搬送波)をカットし,さらに減衰量を稼ぐためにノッチフィルターを挿入する。これにより,不要輻射による妨害を低減できる」という。このため,実質的に最大11Mbpsとなってしまうが,既存の無線インフラに影響が少ないという点は規制緩和に向けた材料の1つになるだろう。

特定バンドにマスクをかけた歯抜け状態の搬送波

HomePlugの開発スケジュール。10月中に認証ラボを設置する

 2001年1〜4月に全米500カ所で行われたHomePlugのフィールド実験では,計6600のコンセント間でファイル転送,ストリーミング,VoIPといったテストを実施した。その結果,ファイル転送時には72%のコンセント間で5Mbps以上,97%のコンセント間で1.5Mbps以上のスピードを記録したという。また,ファイル転送と同時に行ったVoIP(64Kbps×4チャンネル)とストリーミング(250Kbps×3チャンネル)の試験でも97%のコネクションを確認。パケットエラー率は1%以下で,気になるディレイは,VoIPで10ミリ秒,ストリーミングでも20ミリ秒という結果が出た。なお,このフィールド実験には日本のJARLにあたる米国アマチュア無線連盟ARRLが立ち会い,「全く影響がないとは言えないものの,容認できるレベルであると評価した」(後藤氏)。

 後藤氏によると,HomePlug対応製品は10〜11月にも米国でリリースされる見込みだという。日本ではまだ利用できないが,ホームネットワーク分野の有望な技術の1つとなるだろう。

HomePlugの仕様一覧

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関連リンク
▼ HomePlug Powerline Alliance

[芹澤隆徳,ITmedia]

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