リビング+:連載 2003/02/25 21:12:00 更新

連載:enjoy@broadband.home.net
UPnP対応機器が増えないのはなぜ?

デジタル家電のUPnPネットワーク対応がなかなか進まない。今のところ家電各社は様子見を決め込んでいるようだが、実際は水面下でさまざまな動きがある。先週、開催された「Intel Developer Forum Spring 2003」から、UPnPの最新動向を報告しよう

 先週、Intel主催の開発者向け会議「Intel Developer Forum Spring 2003」が開催され、関連するニュースが多数届いた。僕自身もその現場に足を運んでいたが、企業向けの市場とともにクローズアップされているのは、やはり家庭のデジタル化、ネットワーク化に関する技術の提案だ。これは何もIDFに限った話ではなく、家庭向け市場もカバーするIT関係の会議や展示会なら必ず出てくる話題。昨年後半から今年にかけての流行の1つといえるかもしれない。

 今週は、IDFで拾ったホームネットワーク絡みの話題をいくつか紹介することにしよう。

UPnP、本格化は来年以降?

 この連載の中では、UPnPだなんだと騒ぎ立てているが、「いっこうに製品が出てこないじゃないか」と思っている読者もいるかもしれない。こうして記事を書いている本人すら、デジタル機器のUPnPネットワーク対応がなかなか進まないことを感じており、家電ベンダーに取材するごとにコメントをもらっていたぐらいだ。

 ベンダーが“様子見”を決め込んでいる理由はいくつかあるが、まずホームネットワークのインフラが決まるには、まだ時間がかかると考えているからだろう。せめてホームサーバや、PCをサーバとして利用する場合のリファレンスがあればいいが、本来ならこの分野を引っ張るはずの「Windows XP Media Center Edition」が、AVメディアのネットワークサービスを提供していないため、基準となるサービスがない。

 以前、この連載の中でソニーの「VAIO Media」と「RoomLink」の組み合わせが、UPnPベース(UPnP A/Vを利用)で作られていると書いた。しかしVAIO MediaはRoomLinkやVAIO Mediaが動くVAIOにしかサービスを提供できない。正確には、VAIO MediaのクライアントをインストールすればVAIO以外のPCでも再生することが可能だが、もちろんサポートはされない。ましてや、VAIO Mediaのサーバ機能にあらゆるUPnP A/V対応クライアントが接続できるなんてことは、現時点では100%望めないのである。

 今後、UPnP対応の音楽プレーヤーやフォトビューワ、ビデオプレーヤーなどが出たとしても、特定のPC用サーバソフトウェアが添付されたり、専用ホームサーバを指定するといった制限が加わるはずだ。

 もちろん、プロトコルは標準化されているのだから動いて当然と思うかもしれない。しかし、基準となるリファレンスのシステムがなく、異なるベンダー間で接続テストを行っていない現段階では、メーカーによる相互運用の保証は望むことができない。

 このあたりは、UPnPの旗振り役として、この1年もっとも精力的に活動してきたIntelも、十分に把握しているようだ。Intelは、ホームネットワークを有効活用するためのガイドラインとして「Digital Home Guidelines v.1」というドキュメントを発行している。このガイドラインの中では、UPnPを用いて簡単にホームネットワーク向けの機能を実装するための技術的要素やハードウェアデザインのガイドが記載されているが、ベンダー間の相互運用に関しては何も述べられていない。

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UPnPの実装スケジュール。2004年末が1つのマイルストーンとして設定されている

 Intelが示したUPnPのロードマップでは、2004年末から異なるベンダー間のUPnP機器同士の相互運用が可能になってくるとしている。これはには2つの理由がありそうだ。1つは相互運用性の問題に手を付ける前に、きちんと整備しておかなければならない標準化作業があること。もう1つは、高品質のコンテンツを扱うために、コンテンツの権利者が納得するセキュアな環境を実現しなければならないことだ。

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本文中では触れなかったが、メディアフォーマットの規格化も進められている。必須フォーマットは最低限のものとし、UPnPでサポートされないフォーマットの場合はサーバ側でデコードして伝送するかたち。たとえば、オーディオはいったんリニアPCM(非圧縮)データに変換してからUPnPデバイスに送るかたちにすれば、どんなフォーマットも再生できる

なかなか進まないIEEE 802.11e/i

 現在、ホームネットワークのインフラとしては有線イーサネットと無線LANのIEEE 802.11bが最も多く使われている。しかし、家庭に本当に普及させるためにはワイヤレス技術が不可欠だし、かといって802.11bではパフォーマンスが低すぎる。今年は802.11aとgの普及が見込まれているが、これらが本当に広く使われるようになるためには、今年いっぱいの時間が必要だろう。

 また無線LANのIEEE 802.11ワーキンググループでは、無線帯域の有効利用と帯域保証を実現する802.11eの策定が勧められている。さらにセキュリティを向上させる802.11iという規格もある。これらは以前から検討が進められているものの、実際に製品に実装されて登場するのは、おそらく年末から来年にかけてだろう。普及となると、さらに先のことになりそうだ。

 つまり、UPnPがターゲットとしているホームネットワーク自体が、来年中頃までにいろいろな変化が見込まれているわけだ。ならば相互運用を高める作業を行うよりも、まずは相互運用を無視しても、手軽にUPnP対応デバイスやサーバソフトウェアをベンダーが開発できるように環境を整える方がいいと判断したのかもしれない。

 Intelは、開発者向けにUPnPベースのサーバソフトやデバイスをUPnP対応するためのツールキットやソフトウェアライブラリをXScaleのプラットフォームに提供し、ベンダーの開発を加速させようとしている。またXScaleベースのプロセッサを基礎に、A/Vレシーバなどのハードウェアリファレンスを作成し、ハードウェアベンダーがインテルの提供するデザインを元に、簡単にクライアントとなる機器を開発できるよう、設計情報を提供している(昨年10月の記事を参照)。

 このため(日本での展開は不明だが)、ワールドワイドで見ればUPnP対応のA/Vメディアプレーヤーが遠からず登場するだろう。インテルのデザインを用いた製品には、米Linksysが発表している802.11bクライアント内蔵の「Wireless Digital Media Adapter」などがある。

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Intelがベンダーに提供しているUPnPメディアプレーヤーのリファレンスデザイン
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UPnPに対応したLinksysの「Wireless Digital Media Adaptor」。UPnP AVに対応する

 こうした製品を一通りそろえていき、ある程度市場での認知や技術的なバックボーンが整ってから、相互運用性を高める方向へと持って行こうというわけだ。

2004年末がターゲットな理由

 Intelが、2004年末から2005年にかけてを、「UPnPデバイスの相互運用性やデジタル著作権管理機能が実装される時期」と位置付けているのには戦略的な理由もありそうだ。

 UPnPでは、ネットワーク上に映像や音楽などのコンテンツを流すために、IEEE 1394で使われているDTCP(Digital Transmission Content Protection)というコンテンツ保護の仕様を採用しようとしている。IPパケットにDTCPコンテンツを乗せる、DTCP/IPという規格があり、またDTCPはハリウッドや音楽業界からもコンテンツ保護フォーマットとして認められた規格であるため、これをTCP/IPネットワークに転用すれば、コンテンツベンダーも納得できるというわけ。

 しかし現在のように、PCがデジタルコンテンツのコピーマシンと化している状況では、簡単にホームネットワークでデジタルコンテンツを流しましょうなんて話にはならない。DTCP/IPでネットワークを流れるパケットがセキュアになっても、サーバ、もしくはクライアントとしても動作するであろうPCがセキュアでなければ、結局PCの部分でコンテンツを盗まれてしまう可能性があるからだ。

 このようなPCへの不信を打破するため、Intelは2004年末商戦向けに「Tejas」(テハスと読む)というプロセッサと、それに対応するチップセットの組み合わせで、「La Grande」テクノロジという技術を実現しようとしている。La Grandeテクノロジとは、通常のアプリケーションソフトウェアからは参照できない、暗号化されたセキュアなプログラムが同時並行的に動作する仕組み。La Grandeテクノロジのセキュア空間では、すべてのデータ、メモリ内容が暗号化され、その暗号を解くための秘密鍵も通常のプログラムからは手の届かない場所に置かれる。

 この技術を使うと、たとえばインターネットのストリーム放送を横取りしてハードディスクに記録するといったことが不可能になるほか、あらゆる周辺機器(キーボードやディスプレイ、マウスなども含む)に暗号化機能を搭載し、ドライバをセキュアモードで動作させることで、誰も情報を盗めないようにすることが可能になる。

 La Grandeテクノロジを利用するためには、それに対応したOSが必要になる。Microsoftは「Paladium」と呼ばれる、セキュアなハードウェアに対応したOS技術を開発中だが、そのリリース時期が2004年後半と見られている。La Grandeは、それをターゲットに開発しているわけだ。

UPnPフォーラムの動向

 本当にMicrosoftが、2004年末にPaladiumを実装したOS(おそらく次期Windowsの“Longhorn”になるだろう)を発表できるのか? といった危惧はもちろんある。しかし、少なくともIntel側は、2004年末に対応するハードウェアを提供できる予定で、それに併せてさまざまな準備を進めているのだ。セキュアなPCを実現することは、高品質な商用コンテンツを本格的にPCで扱う基盤を作るために必要なことだからだ。

 UPnP対応デバイスの準備も、その一環といえる。

 PCをコンテンツ提供者にとって“安全な機器”にした上で、UPnP機器の相互運用性や著作権管理の仕組み(時限使用許可やコピー回数制限などの制御)をUPnPの中に組み込んでいく。インテルはLa Grandeテクノロジを搭載するセキュアなデスクトップPCプラットフォームに、Centrinoと同様のブランドネームを与えてプロモーションしていくと思われる。

 そのための準備は既に進められており、たとえばA/Vサーバとプレーヤーの仕様を決めたUPnP A/Vでは、現仕様のv.1.0にデジタル著作権管理機能を追加するv.2.0仕様の検討が、2002年10月にUPnPフォーラム始まっている。UPnPフォーラムは、UPnP関連企業550社以上で構成する業界団体で、仕様の標準化作業を行うところだ。

 またルータに対して複雑な設定を行うことなくさまざまなアプリケーションを利用するためのUPnP Gateway(UPnP対応ルータとはこの仕様に対応したルータのこと)も、昨年の8月から次世代版の仕様策定に入っている。V.2.0では802.11アクセスポイントにUPnP対応デバイスが簡単に接続したり、デバイス側からのリモート要求で設定変更を行う仕組みが提供される。このほか、セキュリティ、リモートコントロール、QoSなどの分野で、新しいUPnP仕様の検討を続けている段階だ。

 相互運用性向上に向けては、UPnP対応デバイスのドライバ承認や互換性ロゴの発行などを管理する業界団体として、「UPnP Implementers Corporation」(UIC)がIntel、Microsoft、Canon、Axis、Philips、Thomsonを中心に組織された。現在は27社加盟で対応製品は26と少ないが、2004年末までのスパンで考えれば、相互運用に関して何らかの答えを出すことも可能だろう。

 最大の課題である相互運用性が年内に解決の方向に向かいそうにないのは残念だが、Intelはこの技術に対して、かなり本気で投資を行っている。彼らにしてみれば、La Grandeテクノロジで、新世代のセキュアPCを大々的にプロモートするために、その周辺技術を徹底的に詰めておく必要がある。

 もちろん、笛吹けど踊らず、家電ベンダーやコンテンツ提供者がそっぽを向く可能性はある。だが、それをやらなければ、PCが今よりも家庭のエンターテイメントに深く浸透できない。今後もホームネットワークの動向のひとつとして、UPnPに注目し続ける必要がありそうだ。

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関連リンク
▼特集:Intel Developer Forum Spring 2003
▼UPnP Implementers Corporation

[本田雅一,ITmedia]



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