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デジタル化で写真撮影の敷居が低くなった――秋田好恵写真家インタビュー(2/3 ページ)

» 2006年05月31日 14時56分 公開
[永山昌克,ITmedia]

――フィルムの時代から35ミリカメラを使うことが多かったのですか?

秋田さん: 重い機材を持つのは嫌だし、三脚でがんじがらめになって撮るのが苦手です。自分がアリの眼になったり、鳥の眼になったりして、動いて撮るのが好きなんです。私には35ミリがいちばん合っていると思います。

 実は、私が写真を始めた頃は今よりももっと機材が重かったんですよ。ストロボよりも前の、フラッシュバルブの時代です。機材一式は、まるでレンガやブロックを持つようなもので、楽しみとして持ち歩くなんて真っ平でしたね。だからフリーとして独立したばかりの、まだぺいぺいの頃から、助手を使っていました。それがいまや、機材の面でも、写真の世界に女性が進出しやすくなりました。

――スタジオ撮影でも35ミリを使うのですか?

秋田さん: うちのスタジオのホリゾントは3×20メートルくらいありますが、左右のアングルには限界もあります。でも、例えば脚立の一番上に立って、ポールキャットで身体を支えながらハイアングルから撮ったりもしたいので、やはり機動力のある35ミリがいいんです。

 またロケの場合は、たとえ35ミリでも、ひとりで何台ものボディやレンズを持つのは苦痛です。だからこそ、小さくて軽い「E-500」は自分自身が肩にかけて出歩きたい気持ちになった初めてのデジカメです。ちなみに、昔はズームやAFもあまり好きではありませんでしたが、今こうして使ってみると、こんなにも便利でありがたいものかと実感しています。

生活感を否定するためのヌード

――秋田さんの作品は、一貫して女性、しかも動きのある女性を被写体に選んでいますが、E-500の写真展での作品もその流れをくんだものですね。

秋田さん: 女性の命をテーマにずっと撮り続けています。ただ、私が求めるモデルは妊婦や赤ん坊など非常に特殊なケースが多いので、いつもタイミングよく撮れるとは限りません。単にきれいなだけではなく、豊かな内面を持っている女性の一瞬を突いて撮りたいと思っているのです。

 E-500の写真展での作品は、友人のアーチストの女性と彼女の娘にスタジオに来てもらって撮影したものです。母親も撮りましたが、この写真展で発表したのは娘のカットです。彼女はすべて無防備で、どんなことでもやってくれました。

photo 「OLYMPUS E-500による女性写真家展」で発表した作品A

――撮影中にポーズや表情の指示は出すのですか?

秋田さん: いいえ、しません。ただ、彼女が羽織っている布などの小道具は買い揃えました。普段着ではどうしても生活感がにじみ出てしまいますが、それを避けるためです。本来は、人間の生活感を一切否定するには裸で撮るのがいいのです。

――写真家によって、1枚1枚をじっくりと撮るタイプの人と、枚数をたくさん撮るタイプの人がいると思うのですが、秋田さんはどちらですか?

秋田さん: 具体的なカット数は分かりませんが、かなりたくさんの枚数を撮りました。しかし、面白いと感じるシャッターチャンスは、瞬きをするくらいのわずかな時間しかありません。彼女は自分の宝物である香水の瓶を持って現れ、その香水を自慢したかったようなんですが、その手つきがものすごく可愛い。それをとらえようと必死になってシャッターを押したので、すべての瞬間を確認できているとは限りません。偶然性に助けられた部分もあるでしょう。

 女の子は生まれたときから、とっても柔らかいんです。誰もが、赤ちゃんを抱っこした時に柔らかい感触を味わうと思いますが、それと同じ感触を彼女から感じたんです。しかも、その上で「おんな」を感じさせる面もある。そんなことを表現できればと考え、この作品を仕上げました。

――後から補正などの画像処理はしていますか?

秋田さん: 思った通りの仕上がりになりましたので、撮ったままで何も補正はしていません。ただ構成として、2枚の写真を並べて表現しようと考えました。エディトリアルの分野では、今では特に珍しい表現方法ではありませんが、私は個々に撮った2枚の写真を並べて見せることを昔からよくやっています。

photo 「OLYMPUS E-500による女性写真家展」で発表した作品B。本来は、このBをAの右側に展示し、4枚の写真をまとめて見せる構成になる

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