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デジタル化で写真撮影の敷居が低くなった――秋田好恵写真家インタビュー(3/3 ページ)

» 2006年05月31日 14時56分 公開
[永山昌克,ITmedia]
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客観的な目で被写体をとらえる

――秋田さんは専門学校で肖像写真の授業を受け持たれていますが、学校ではデジタル写真はどれくらい普及しているのですか?

秋田さん: 私が担当している2年生の肖像写真の授業は、もともとは前期はフィルムということになっていますが、多くの学生はデジタルカメラを持ってきています。みなさん自由自在にデジタルを使いこなし、卒業制作は全部デジタルになっています。

――フィルムからデジタルに移って写真の撮り方が変化したと思いますが、そのメリットやデメリットは何ですか?

秋田さん: すぐに結果を見られるデジタルでは、その場では分からない責任の重さを感じることが難しいですね。そんなに簡単に分かってもらっては困る、という思いがあります。本来は、分からないこそ真剣になれるんです。

 とはいうものの、デジタルで軽々と写真を撮ることは、それはそれでいいのかもしれません。最近は、そんなに悩まなくてもいい、写真はもっと自由でいいんだと思うようになりました。

 かつては「写る」ということ自体がたいへんな技術を要することでした。しかし、デジタル化によって、写真の技術的な敷居はずいぶん低くなりました。その結果、本来はちゃんと写すために必要だったエネルギーを別の方向に注ぐことができます。例えば、構図や絵作りにこだわったり、何を言いたいのかを突き詰めたり、内面と向き合ったりするなど、技術面以外をいっそう追究できるようになります。

 今後出てくる写真家たちの性質も変わるでしょう。技術のハードルが低くなったことで、写真を専門にしていない美術系の学生や一般の学生にとっても、のびのびと写真を写せるようになりました。これからは、単に写真だけを撮れますではなく、いかに豊かな中身を持っているか、そして写真を道具としてどう使いこなすかが、ますます問われるでしょう。

――技術の敷居が低くなり、写真を楽しむ層が今後さらに拡大しますね。

秋田さん: はい。例えば、女性や主婦でも手軽にカメラを扱えるようになったことで、ママさん作家のような人も簡単に生まれるような気がします。ただし、単に記録として写真を撮ることと、作品として撮ることでは心構えがまったく違います。

 以前に赤ちゃん写真のコンテストの審査をしたことがあります。そのほとんどの応募作は、我が子を可愛いという気持ちだけで撮った家庭写真でした。それはそれとして構わないのですが、他人に見せられる作品にはなっていません。一歩視点を変えて客観的に見ることができていないんですね。

 例えば、赤ん坊にみんなで声をかけて笑顔だけを狙ったり、部屋の中にあるものをすべて写したり、寝顔を撮ったり、そんな写真ばかりでは審査する側はまったく面白くありません。そうではなく、もっと客観的な視点で赤ん坊の内面をとらえたような写真を見たかったですね。子育ては、母親にとっては非常に苦しい時期ですが、同時に絶好の被写体を持っている時期でもありますから。

自分のイメージなんて、たかが知れている

――秋田さん自身の撮影では、どんなことにいちばん気をつけていますか?

秋田さん: 撮る際には、たとえおしゃべりなどほかのことをしていても、被写体から絶対に眼を離さないようにしています。被写体をじっと見ていれば、そこには様々な発見があります。自分自身が持っているイメージなんてたかだか知れています。中には自分のイマジネーションに自信を持っている人もいるでしょうが、そう言える人は私には分かりません。

 私は自分のイメージが豊かではないので、被写体をしっかりと見つめ、そこから語りかけてくるものや、発散されてくるものを逃さないようにキャッチするように心がけています。これが私の撮影の信条です。だからこそ、それにすぐに対応できる機動性の高いカメラがありがたいのです。

――今後の活動についてお聞かせ下さい。これからも創作活動にデジタルカメラをお使いになりますか?

秋田さん: 間違いなく、使います。また撮影だけでなく、デジタル化によって写真の見せ方が変わってくることにも可能性を感じています。従来の写真展はプリントしたものを展示するのが一般的でしたが、これからはディスプレイを使った映画のような写真の見せ方もますます普及するでしょう。

 そして映画や音楽など他のジャンルとの垣根がなくなって、コラボレーションがいっそうしやすくなる気がしています。例えば版画家の人と一緒になって、お互いに響き合うような作品を作りたいですね。

 デジタルは従来のフィルムと同じ考え方で扱っていいのかなど、実は、自分の中でまだ十分にデジタルについて確認できていない部分も少しあります。でも、それもあと半年くらいで解決する気でいます。今はデジタルに大きな可能性と楽しみを感じていますので、怖がらないで、どんどん応用していきたいですね。

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