Mobile:NEWS 2002年8月12日 08:57 PM 更新

iモードは横断的な「ユーザー認証」を目指す

iモードの次の目標とは何か? 統合的なユーザー認証を計画しているのはMicrosoftの「Passport」だけではない。iモード企画部長夏野剛氏の著書『ア・ラ・iモード』が登場した

 「a la i-mode」。──フランス語の“流行”をもじったタイトルの本が出版された。NTTドコモでiモード戦略を担当する夏野剛氏が、iモードに関して記した2冊目の書籍である。

 iモードの基本的なコンセプトを語った前著、『iモードストラテジー』と比べ、内容が薄いという評価も聞く。しかし本書、『ア・ラ・iモード』(日経BP企画刊)には、そこかしこに今後のiモードに関するヒントが散りばめられている。

iモードが次に目指すのは、ユーザー認証の提供

 同書によれば、iモードは横断的な「ユーザー認証」など、ISP分野への付加価値の提供を進めていく。

 「iモードが次に目指すもの、それはいたずらに端末の種類を増やすような横への展開ではなく、なお一層縦方向へ展開することである」(同書)。これは、世間でいわれるiモードのオープン化、水平分業ではなく、さらに垂直統合を進めるという夏野氏の宣言でもある。

 縦方向への展開でポイントになるのは、“インターネットに残された未開拓領域”を取り込むことだ。ドコモは既にポータル、ISPとしての機能からネットワーク、クライアント(携帯電話)までを持つが、さらにサーバとポータルの間に位置する「コンテンツ・プラットフォーム(基盤)エリア」に注力するのだという。

 その分かりやすい例として、夏野氏は「アカウント・アグリゲーション(ユーザー情報統合)」を例に挙げる。公式サイトに限ってだが、閉じたネットワークを構成できるiモードの利点をさらに向上させようという考えだ。例えば、ユーザー認証を横断的に各Webサービスに提供する。「一度の認証(シングル・サインオン)、つまりiモードを使い始めるときの認証で、すべてのサービスを横断的に使うことができないだろうか」。

 ユーザーIDとパスワードを、サイトごとに入力する煩わしさを、ドコモが認証を一括管理することで解消する──。AOLの「マジックカーペット」、Microsoftの「.NET Passport」と同様のインターネットサービスを、iモードも狙う(2001年7月の記事参照)。

 これは、大きな需要とトラフィックが見込めるECサービスに向けた取り組みと見ることもできる。

 既にJ-フォンでは、「SKY CHECK」という名称で通信キャリアがユーザーのクレジットカード情報を管理し、それぞれのWebサイトに横断的に提供するサービスを開始している(2001年11月の記事参照)。これまでクレジットカードに縁の薄かったドコモも、電話料金のクレジットカード払いを可能とし、「DoCoMo Card」という提携カードも発行するなど(8月7日の記事参照)、将来への準備は着々と進んでいる。

 もう1つは、ネットの外のリアルビジネスとの連携だ。具体的な構想には触れられていないが、2次元コードを使った自動販売機との連携である「Cmode」(4月15日の記事参照)、504iシリーズの赤外線機能を使った外部との連携(5月23日の記事参照)を紹介し、さらにリアルの世界との連携を進めるとしている。「私の思い描く携帯電話の将来像は、まさにこのリアルとネットをケータイでつなぐものである。iモードの開発に参加したときから、この方向性は一貫して変わっていない」。

オープン化ではなくバリューチェーン

 大成功を収めているiモードだが、各方面からの批判があるのも確かだ。ポータル開放論、迷惑メール問題などについて、本書ではiモード企画部長としての回答も記している。

 例えば、総務省を中心とする、iモードのオープン化論に関して(2001年7月の記事参照)、夏野氏は「バリューチェーン」という言葉をもって反論している。

 このバリューチェーン論は最近の夏野氏が特に強調するもので、(1)他社が乗りやすい技術の採用 (2)技術を前面に見せないマーケティング (3)他社のビジネスが成り立つサービス設計――といった従来の説明(2001年3月の記事参照)に代わって、iモード成功の理由として語られることが多くなった。

 その趣旨を簡単に言えば、iモードという生態系の中で、ドコモはユーザーとコンテンツを媒介する「ビジネスモデル」「マーケティング」「サーバ」「ネットワーク」「クライアント(携帯電話機)」を提供し、調整を行っている、というもの。決して各分野を支配しているのではない、というわけだ。同氏はドコモがこの役割を担ったことがiモード成功の秘密であり、その証拠として、誰もその調整役を引き受けなかった欧米では、データ通信サービスが立ち上がっていない、と主張する(2001年11月の記事参照)。

 一方、迷惑メールや出会い系サイトの問題については、夏野氏は社会的コンセンサスの醸成や総務省など行政機関の積極的な対策を求めている。

 現在、iモードの公式コンテンツには出会い系サイトは含まれていない。「実際に起こっている犯罪などを考慮し、ユーザー保護の考え方を優先させているからである」。

 しかし、今後もこの方針で行くかといえば、それはちょっと違うようだ。同氏は本書で、出会い系サイトのような広告でも掲載するニューヨーク・タイムズ紙の例を挙げ、「『臭いものにはふたをしろ』的な解決方法ではなく、自己責任と社会の認識のバランスをとりながら受け入れられているように見える」と評価。「一部の影の部分だけを取り出して、大多数の人のメリットを奪うことだけは避けなければならないし、あくまでも社会的コンセンサスの醸成と歩調を合わせていきたいと考えている」と述べている。ユーザーの認識が向上し、自らがリスクを覚悟した上で利用できるようになれば、将来的には出会い系サイトの掲載もあり得るというわけだ。

夏野氏の本音? コラムも必見

 本書には、各章の終わりにコラムが掲載されており、お堅いビジネス書としてではなく、夏野氏の個人的な経験が語られているのも面白いところ。

 夏野氏は、iモードスタート当時を振り返り、「ドコモ関西だけは、ほかの地域会社とは別の戦略を取り始めた」としている。ドコモ関西が、iモード端末に販売報奨金をたくさん積むと共に、積極的な販売施策を打ち出したことでiモードに初期の勢いがついたというのだ。「iモードの成功の一因は、最初の流れを生み出した、このときのドコモ関西の経営判断にあると思っている」。

 これまであまり語られたことのない、夏野氏の前職、ハイパーネット副社長時代の経験が語れているのも見逃せない。当時の状況を、「私がやっていることは、まるでインターネットそのものの普及活動であったのだ」と形容。そのときの経験が、iモードのバリューチェーンの発想につながっていったのだという。なお、ハイパーネットに関しては、元ハイパーネット社長の板倉雄一郎氏著『社長失格』が詳しい。

 本書『ア・ラ・iモード』は270ページの単行本だが、内容は難しくはない。休み中の一読をお勧めしたい

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関連リンク
▼ イーエスブックス ア・ラ・iモード iモード流ネット生態系戦略
▼ 日経BP企画

[斎藤健二, ITmedia]

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