W51Sのボディカラーは「ラティスブラック」「フローレットピンク」「ラスターベージュ」の3色展開。それぞれのカラーごとに背面パネルの処理が異なるのが特徴だ。この加工を施すために、金型製作には通常モデルの4倍から5倍の時間をかけたと安西氏は振り返る。
「ラティスブラックのテクスチャーは特に時間がかかっています。大変だったのは、フラットとテクスチャーの境目の部分。ここのエッジを金型ではっきり出すのが難しく、1個ずつ掘り込んでいく作業もかなりの精度を必要としました。実は、ブラックのテクスチャーは左右非対称な形の組み合わせの連続になっています。四角が2つくっついた模様と、四角が1つだけの模様を組み合わせており、それが連続したパターンを形成しています。単純に同じ模様の組み合わせではないのです」(安西氏)
左右非対称のパターンをうまく見せるために、デザイナーや加工するメーカーとは何度も打ち合わせを重ねたという。
「新入社員の方などにビジネスシーンでカッコよく使ってもらいたいと考え、カーボン調のテクスチャーや最近人気の『Tumi』のナイロン生地を使ったバッグなどをイメージしました。レザーの手帳や名刺入れなどと一緒に机の上に並んでビシっと決まる。そんなイメージです」(冨岡氏)
ラスターベージュには模様はないものの、こちらにも隠れた一工夫がある。
「ベージュは幅広い年齢層に向けたものということで、あえて模様を入れずに仕上げていますが、ツヤ感を出すために金型に鏡面加工を施しています。無印良品のようにシンプルで長く使えるようなものに仕上げました」(兼田氏)
花柄がかわいらしいフローレットピンクはもちろん女性向けだ。
「モノグラム柄の小物を使っている女性を連想しました。春ということで、かわいらしい花のモチーフを採用しています」(兼田氏)
「子供の時に持っていたファンシーグッズのイメージですね。普段使いでいつも身近に持っていて、かわいいと思っていただけるとうれしいです」(冨岡氏)
前モデルのW43Sは端末背面の全体が光るようになっていたが、W51Sはメインディスプレイ側ボディの先端部が光り、背面には音声通話やメールの着信時などに電話、メール、アラームのアイコンが明滅する「お知らせアイコン」が設けられた。
W43Sで表現した芸術性とユーザーの便利さをブレンドすることを目指したというW51Sのイルミネーションは、眼にやさしく光り、お知らせアイコンは情報をさりげなくユーザーに届ける。開発陣が狙ったのは美しさと実用性を兼ね備えた“才色兼備な演出効果”だ。
「スタンダードモデルに位置付けられるW51Sでは、実用性の高さも訴求しています。ミュージックシャトルにイルミネーションを付けた『W42S』や、W43Sの“あかり”など、“光はソニー・エリクソン”という意気込みで取り組んでいます」(冨岡氏)
イルミネーション用に搭載されたLEDの数は6灯で、「それぞれのアイコン用に1灯ずつと、底面の先端部用にはアイコンの下に3灯」(安西氏)を装備する。アイコン用には上面発光のLEDを、先端用にはアイコンのすぐ下に横照射のLEDを配置。中には光を導くためのパーツがあり、端の2つはやや外側に向かって斜めに発光し、真ん中のLEDは前に向かって発光する。これにより光が美しく流れるように見えるのだという。また、ボディの色味に合わせて光の色も調整している。
「端末背面とディスプレイ側の先端部は、グロス感も素材の色味も異なりますが、どちらもほぼ同じような色味になるように調整しています。中でも、フローレットピンクが一番きれいに合っていると思います」(安西氏)
先端部用の3灯のLEDによって、さまざまなイルミネーションパターンを表現しているが、なめらかな動きを表現するためにソフトウェア面での工夫や苦労もあったという。
「3灯のLEDで表現するので、やわらかさや華やかさを出すのにかなり苦労しました」(立川氏)
「端末を閉じる時に先端部がふわっと光ります。通常の端末だとカチャと閉じるだけですが、閉じた時でも柔らかさや余韻、使っている心地よさを感じてもらえればいいなと考えました」(神山氏)
一見、何もないように見えるフラットな背面に、浮かび上がるように表示されるアイコン。このさりげないイルミネーションを実現するためにも、微妙な調整を施しているという。
「背面のアイコンは光っていない時はまったく存在が分からず、ボディのデザインを損ねません。しかし、光る時は視認性を高めないと実用的ではありません。この兼ね合いが難しく、機構設計チームにはかなり頑張ってもらいました」(冨岡氏)
「背面パネルは透明な部材でできており、ラティスブラック、ラスターベージュ、フローレットピンク、それぞれ異なる塗装をしています。パネルの裏側にアイコンのシートを貼っていますが、貼っただけだと周りに光が漏れしてしまう。そこでアイコン以外は全部遮光するような構造にし、浮かび上がるように光って見える表現にしました。ただ、このままではLEDが光っていない時に内部構造が外から見えてしまうという問題があります。とにかく塗装と内部構造の色味などを細かく調整して仕上げました」(安西氏)
透明なクリアパネルの裏に黒いシートを貼ると、その時点で光が透けなくなるものの、光はまったく漏れなくなってしまう。そこにアイコンの形に切り込みを入れることで、そこだけ光が抜けるという仕組みだ。
ラティスブラックはテクスチャーの影響で、位置によってアイコンの見え方が異なるという問題もあった。デザインチームと機構設計チームは、アイコンの位置や大きさの調整を何度も繰り返した末に、製品化にこぎ着けたという。さりげないイルミネーションや浮かび上がるアイコンは、微妙な調整のたまものなのだ。
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