携帯電話の不具合問題を追う〜2 NTTドコモにて(2/2)

どこまで「お申し出対応」どこから「回収」?

 もう1つの疑問は,「回収」となる不具合の基準というのは何なのか,という点である。「液晶の傷」や「着信音量が小さい」「通話品質の不満」などのトピックがユーザー間で盛り上がっていた段階では,“申し出れば改善機と交換する”という対応だった。そして「セキュリティ」に問題が及ぶに至って,NTTドコモは発売停止・回収交換を決定した。

 NTTドコモでは,「回収」を決定づける要素として,「電話機としての基本機能への問題」と,「危険」(発火の可能性など),そして,今回の事例の「セキュリティ上の問題」の3点を重視して判断を行うという。だが,もちろんそれを絶対的なルールとしているわけではなく,問題の大きさによって柔軟に対応している。

 家電や自動車などでも,同じ機種内での製造時期ごとの改善が,ユーザーには告知しないレベルで行われている。少し詳しいユーザーなら「製造ロットによって違いがある」ことは知っていることだろう。携帯電話においても,もちろんそれがある。

 より良いものへの改善はもちろんのこと,また,出現頻度の極端に低いような問題についても,製造を続けていく際に改善されることがあるそうだ。ユーザーがそのような問題に気がついて,ドコモショップなどへ持ち込んだ場合,改善された製品と交換される場合もある。ユーザーの目からはそれが「知らないうちに改善機が出ていた。不具合を隠しているのでは?」と見えることもあるだろう。実際,小さな問題や,それに対する処置などをすべて公表してほしい,というような声もユーザーからは挙がっている。

 これに対して吉岡取締役は「そういう情報も公開していきたいとは思っている」と答えた。現段階ではすぐに決定できることではないが,ユーザーに対する姿勢として,その心構えがあるとのことだ。

 しかし,ほとんどのユーザーが気にしないような細かな問題までを提示することは,いたずらに不安を煽ることにつながるのでは,との心配もある。また,ほかの家電などの場合に比べ,ユーザーの間に「不具合」に対する過敏な反応が生まれていることも対応を難しくしている要因になっているようだ。

 ユーザーの「不具合」に対する意識の変化も,携帯電話の周辺に起きている異変の1つなのではないだろうか。「不具合」という言葉を軸にしたユーザーとキャリアの意識のずれ,そこからも「きしみ音」は聞こえてくる。

ユーザーの声は届くのか

 “通信キャリアやメーカーと意見交換のできる場がほしい”と望むユーザーがいることは前回の掲載の通りだ。掲示板などでユーザー同士が情報・意見交換をしているだけでは,憶測や不満が積もっていくばかりになる。

 その中で,NTTドコモは, 「NTTドコモでは,『docomo113.com』というサイトを開いていて,そこでは携帯電話の疑問に答えている。故障や不具合では? などの質問は,ぜひメールなどで連絡してほしい」(吉岡氏)

 こちらへ寄せられた質問には必ず返答し,対応してくれるとのことだった。このNTTドコモの対応は,現在の状況の中で評価すべきところと思われる。だが,サイトの存在が十分に告知がされているとは言いがたい。また,少なくとも前回掲載したKou氏の意見では「質問先」や「投稿先」ではなく,「対話」がしたい,との意向が示されていた。すべきか否か,という考え方はそれぞれの立場や状況で異なるだろう。だが,少なくとも現在のところ,双方が納得する結末に至っているとはいえないのではないかと思われる。

端末のデータを守る,「お預かり修理」

 自分の端末が回収・交換となった際に,ユーザーが気になるのは,携帯電話の中に貯められたデータがどうなるかだ。

 ユーザー個々人がダウンロードした着メロや壁紙,Iアプリなどについては,新しい端末と交換した場合,移行されない。これは「技術的な問題ではなく,権利的な問題で難しい」と吉岡取締役は言う。専門家と相談し検討を重ねたが,端末からデータを引き出し別の端末に移すということは,どうしても「複製」になってしまい,権利的な問題に触れてしまう。それがデータの移行を断念した理由だという。

 また,NTTドコモでは,希望するユーザーには「交換」ではなく「お預かり修理」という方法も用意している。この方法を選択すれば,2〜3週間の期間はかかるものの,携帯電話内のデータは全て守られる。

 「ユーザーがどちらの方法を選ぶかは自由であり,NTTドコモは,決して携帯電話内のデータを軽視しているわけではない」と吉岡取締役は言う。さらに,「消えたデータの保証というわけではないが」と前置きしつつ,お詫びとして商品券をユーザーに送付していることにも触れていた。通常「データ内容に対する免責」が一般的とされる業界内においては,異例の手厚い措置という評価も高い。

 コンテンツの権利上の問題などは,携帯電話が高機能化してきたことにより新しく起こってきている問題であり,これもユーザーの意識とキャリアの意識のずれを生む可能性のあるいわば「火種」といえるかもしれない。実際,データの移行について,納得できないというユーザーの声を聞くこともある。それは,キャリアとユーザーの間で意思の疎通がはかり切れていない現状を表しているようにも思われる。携帯電話の高機能化は技術的な面のみではなく,あらゆる部分で新しいルールを要求し,それは未だ一般化している途上なのだ。

 NTTドコモが「お客様第一」というスタンスを取り,ビジネスという枠の中で手厚く行っている「ユーザー保護」。そしてユーザー側の思う,ある種自由な要求。キャリアの誠意とユーザーの要求は,双方のスタンスの違いからすれ違いを起こし,ここからも「きしみ音」は聞こえてくる。共に熱意を持って携帯電話に向かい合っているがゆえに,そのすれ違いは奇妙な熱を帯びてきている。

前のページへ戻る

[絵本智,ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.



モバイルショップ

最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
第3世代インテルCoreプロセッサー搭載PC ドスパラはスピード出荷でお届けします!!

最新スペック搭載ゲームパソコン
高性能でゲームが快適なのは
ドスパラゲームパソコンガレリア!