> コラム 2003年6月3日 08:11 PM 更新

週刊ドットブック
最終回 ビートルズからシェイクスピアへ02(2/3)

メディアには終わりがあります。そのことを知らされたのはレーザーディスクです。DVDもまたいつか姿を消す技術の産物として運命づけられたビークルでしょう。

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寺山修司CD-ROM「書を捨てよ、町へ出よう」より。しゃれた写真を利用した章扉のデザイン。写真や資料の提供には人力飛行機舎や九条映子さんの多大な協力があった


版面のデザインは「The Complete OZU」とよく似ている。<寺山修司CD-ROM「書を捨てよ、町へ出よう」より>


寺山的アジテーションが満載された「走る大論文」の章扉。なかでも「林少年論」は東京板橋で起きた郵便局襲撃事件に関与した中学生“林少年”について書かれていた。<寺山修司CD-ROM「書を捨てよ、町へ出よう」より>


常に踏襲されたコントロール・パレット(右端)。また本文の注釈として更にウィンドウが開かれる構造になっていた。注釈には、1994年11月7日付けで届けられた“林少年”こと林信吾さんからの反論が掲載されている。「これはウソである。彼は自分で取材などしていない。」とあり、「そういうあんたは、一体なんなのかね?自分のイメージの中にある“林少年”をダシにして、原稿料をしっかり稼ぐ、一番タチの悪い<鬼>じゃないのかね?……」と書かれてある。<寺山修司CD-ROM「書を捨てよ、町へ出よう」より>


「マルのピアノにのせて時速100キロで大声で読まれるべき65行のアメリカ」は、朗読する生前の寺山修司の声と、かわなかのぶひろの映像が収録されている、まさに日本版「Poetry in Motion」だった。<寺山修司CD-ROM「書を捨てよ、町へ出よう」より>

 本であるということ、本に似ているということ、本だけではないということ、この点について触れてみる必要があるとおもいます。

 電子出版はいつも本を越えたいという欲望をぶら下げて歩いていました。シンプルで“ローテク”ともいえる紙の本に対して電子本は“ハイテク”だと考えていたからです。最初の頃は、威力をみせつけたいがあまりハード指向の“ハイテク”が蔓延したのです。しかし全ては短命に終わりました。そこで少しは考えるようになってきたのです。

 むかしながらのおとぎ話のような題材をつかい、“本”を舞台にして、本以上のファンタジーをつくろうとした試みがありました。「ルル」です。


「LE LIVRE DE LULU(ルルの本)」。トップページが開かれたところ。懐かしい昔の本の雰囲気をただよわせる。作者のロマン・ビクトル・プジュベ氏はこれが彼にとって最初の電子出版作品だった。電子的な本に対するプジュベの率直な希望や願望が込められたメッセージとなっている。不思議な新鮮さが人々を驚かせた

 ボイジャーのパリ事務所にいたアリーン・スタイン(その後独立してOrganaを設立)が企画の中心となり、これにフランスの大手出版社フラマリオンが資金的バックアップを与えて大掛かりな発展をしたのが「ルル」でした。

 ヨーロッパ調の美しい本の中に住む少女を主人公としたもので、“舞台”が本なのです。本というパッケージされた世界の閉塞性を下敷きに、そこから飛び出るという願望を、本を越えるイメージとしてちりばめた仕掛けをもっていました。典型的な例は、挿絵が動くのです。単純に動くだけではなく、アクセスの仕方によってあたかも変幻自在に動くかのようにつくられています。特に、本は視覚的に平面で挿絵も二次元のイメージですが、挿絵が三次元立体となって起き上がり、平面的な本の上を随所に動き回ります。これは見るものに素朴な感動を与えました。


暑さにオーバーヒートしたロボット「ネモ」は、本の上に立ち上がって自分でページをめくり、原生林が記された66ページへいこうとする。<「LE LIVRE DE LULU(ルルの本)」より>


二次元の本と三次元に表示が調和して、童話的世界に新鮮なファンタジーを加味させている。この後、ロボット「ネモ」は水のなかに入るのだが、滴などが歩き回るロボットの後にしたたるという細かい演出も施されていた。<「LE LIVRE DE LULU(ルルの本)」より>

 ふとおもいだすものが私にはありました。フレームで切り取られたいわゆる映画フレームの映像を本のうえに表示するのではなく、本にメリ込ませて対象を自在に表示するという考えは、何度か試みられた手法でした。

[萩野正昭, ITmedia ]

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