IT仕事塾

ファイルメーカーPro ユーザーの現場を探る
第7回 個人用として始めたデータベースが、輸入卸売り業務の基幹システムに成長した「ワッツ インターナショナル」(2/3)

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 コンピュータ化、インターネット化もまだだったため、村田氏がパソコンの購入、教育も一人で行い、会社のネットワーク接続も実施していきました。「社内のミーティングをやったあとにコンピュータ講習会を開くというやり方で、2年くらい。コンピュータに対する恐怖感をほぐして、タイピング練習もやったりしましたね」と村田氏は振り返ります。

 村田氏の入社が5年前。3年前から村田氏のシステムを会社全体で使うようになり、2年前からは、習熟度が上がったそうです。そして、1年前に社員全員がファイルメーカーProを導入し、いまでは全員が常にファイルメーカーProで、村田氏開発のシステムを使っている状態です。

バックアップは万全に

 会社の基幹システムとなっているだけに、このシステムが動作しなくなったら業務が一気に止まってしまいます。それを防止するために、ワッツ インターナショナルではバックアップ体制を十分に整えています。

「在庫も、問い合わせもこれですべてやっているので、変なプレッシャーがありますね」と村田氏。

 バックアップは次のような仕組みをとっています。

  • ファイルメーカー Serverによるバックアップは、2時間おきに
  • さらに、CD-Rにもバックアップ
  • 別のファイルサーバにもバックアップ
  • ディスクシステム自体はRAIDを組み、冗長性を持たせている
  • 停電が発生したら、UPS(無停電電源装置)からファイルメーカー Serverを安全に終了し、その後でOSも終了するためのコマンドを実行する

 停電対策はやはり重要で、ビルの電気収容力を超えてしまったために事務所が停電になったときも、UPSのおかげで難を逃れたそうです。これはファイルメーカーProベースのシステムに限ったことではありませんが、ファイルの定期的なバックアップとUPS、この2つは基幹業務では必須といえるでしょう。

ネットワークと印刷

 村田氏が会社に導入したネットワークは、最初は本社と支店を結ぶ128Kbpsの専用線でした。いまとなってはかなり遅い部類に入るネットワークなので、不必要なものはソートせず、計算させないような工夫をしていましたが、それでも遅い。光ファイバーで、VPN(仮想専用線)を使うと1拠点2万円で済むことがわかったため、本社・支店間だけでなく、倉庫にもネットワークを導入したのです。


ファイルメーカーProが20クライアント、ファイルメーカー Serverが稼働するサーバ1台と結ばれており、ファイルメーカーProは社員全員に割り当てられている。本店と支店、倉庫間はVPNで接続

 それまでは、倉庫では在庫と発注がずれてしまい、それを修正するのが難しかったのですが、倉庫でもリアルタイムに在庫と発注状況を把握できるので、ファイルメーカーProの画面を見ながら、本社・支店との間で話をすることができます。

 光ファイバーのネットワークにVPNを使うことで安価にセキュリティを確保し、基幹業務に利用することができるわけです。おかげで、遅い回線ならばプログラム面でかなり妥協を図らなければならない状況も回避できたそうです。ファイルメーカーProを使ったシステム構成は、ネットワークインフラを含めたうえで柔軟に考えた方がよいでしょう。

 回線が遅いのであれば、ファイルメーカーProのデータベースをウェブで簡単に利用するための仕組みであるWebコンパニオンや、HTMLを拡張したCDML言語を使ったカスタムWebを利用するという選択肢もあります。ファイルメーカーPro Unlimitedを使って、さらに大規模な利用に対応することも可能です。

 ただし、ワッツ インターナショナルでの利用に関しては、ウェブブラウザをクライアントソフトとして使うのではなく、あくまでもファイルメーカーProのサーバ/クライアントである必要がありました。それには2つのポイントがあります。

 まずは応答速度と更新に要する時間。「弊社では情報の更新頻度がすごく高いので、リアルタイムに更新が行われないウェブブラウザでの利用は難しかったのです」と村田部長。もう1つのポイントは、印刷。「うちは商売自体がアナログで、取引先には電子メールを持っていないところも多いので、うちからの出力は紙ベースになることが多いです。輸入する際にも紙への印刷は外せません」と村田部長は説明します。

 ファイルメーカーProの大きな特徴の一つに、印刷時のレイアウト制御を簡単に行うことができることが挙げられます。レイアウトを選択する時には、基本的な「標準レイアウト」、一覧表示に便利な「表レイアウト/レポート」、表計算ソフトのようなレイアウトが可能な「表形式」のほかに、ラベルプリントのフォーマットがあらかじめ用意された「ラベルレイアウト」、その縦書き版「縦書きラベルレイアウト」、その名のとおりの「封筒レイアウト」が用意されています。その後、さらに細かいレイアウトを、画面イメージのとおりに設定することができるのです。

 ワッツ インターナショナルの取引先は「チェーンストア統一伝票」 ( http://www.hisago.co.jp/Forms/bp1.htm ) への出力を指定してくるところが多く、ファイルメーカーProのレイアウトカスタマイズでこれに対応しています。これを印刷するには、ドットインパクト方式のプリンタが必要です。この伝票を使用する指定をしていないところは同社独自のフォーマットでレーザープリンタを使い、印刷しているそうです(そのほうが必要な情報を、高速に印刷することが可能です)。

 このように細かい印刷制御は、ウェブの画面からの印刷では不可能です。紙への印刷を多用する業務では、ファイルメーカーProをクライアントソフトとして使うことは必須といえるでしょう。

「ユーザーを不安にさせないためのダイアログ」の工夫

 村田部長は、ユーザーの使い勝手を細かく観察して、それをシステムの中に取り入れています。たとえば、別の人が使っている様子を後ろから観察したりといったこともやっています。こういう細かい工夫がユーザービリティの向上につながっているわけです。

[松尾公也, ITmedia ]

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