Brand New PC Style:タブレットPCは電子カルテをどう変える?〜国立循環器病センター 中沢一雄氏に聞く〜

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チバ  それでも各社の電子カルテシステムは成立したわけですよね。

中沢  確かに伝票を作成して飛ばすようなものはある程度の成功は納めて、いわゆるOA化はできたのです。つまり、医療のど真ん中ではなくその周辺を便利にする、という点はうまくいったわけです。

 しかし、カルテはあくまでカルテであって、医療の本質に関わるところです。電子カルテシステムには、医療の標準化とか診療連携とか、完成すれば都合のよい話が山ほどあるのですが、現実的に開発の部分で積み残した課題がたくさん残っています。少なくとも、現在のものは医者の入力負荷が高すぎるんです。

 とはいえ、電子カルテは時代の流れとして必要なもの。納得のいくものが無いなら自分で作るしかない。そこでどうしようか、と考えていたときに “Teddy(テディ)” で有名だった五十嵐さんに出会ったわけです。

チバ  なるほど。そこで大きな出会いとなるわけですね。

中沢  当時、僕のバーチャルハートを取り上げてくださった研究会がありまして、そこに五十嵐さんも来られていました。で、実際に五十嵐さんにお会いしたところ、彼はTeddyだけじゃなくいろいろな基礎技術を持っていることを知ったわけです。それらは電子カルテの基盤技術としてうまく当てはまるだけでなく、彼のインタフェースに対する考えが僕が持っている電子カルテのイメージ非常に近いこともわかりました。

チバ  それで早速、共同研究がはじまったということですね。

中沢  それがそう簡単でもなくて……。五十嵐さんはインタフェースの研究をメインにしているわけですから、電子カルテ全体の研究を丸抱えできるほど余裕はないわけです。それは僕も同じこと。実際、電子カルテと言っても複雑で、病名ひとつとっても、いろいろな意味で多種多様な付け方があって、なかなかコード化もできないところがあります。たとえば、医師の専門分野や流儀によって、けっこう違います。

 そこで、 NECさんの持っているパッケージ にインタフェースとしてかぶせて使うことを提案したところ、開発に協力いただけることになったわけです。ここまで来るのに、けっこう時間がかかりました。

チバ  開発に着手したのはいつ頃なんでしょう?

中沢  最初は4年ぐらい前になりますね。途中、五十嵐さんはブラウン大学への留学もありましたので、日本と米国を行ったり来たりしてもらって進めたんですが、大変でした。

ペン入力により特化したインタフェース(試作段階)。ペンを長押しすると、このような円形のメニューが現れる


Teddyのエンジンが応用されている部分(試作段階)。手書きの2Dの胃”が、すぐに3Dで輪切り可能な“胃”に変化する

僕の電子カルテのイメージは、単純な医療の記録ではなく、医者の思考の場、そして患者とのコミュニケーションツール

「電子カルテシステムがどのようなものに仕上がりつつあるのか」との質問に中沢氏と協力企業であるNECソリューションズの第二公共システム開発事業部主任の岡田靖士氏が、タブレットPC( NEC VersaPro )を使ってデモとともに製品の概要を解説してくれた。

 中沢氏と五十嵐氏の共同開発による電子カルテシステムは、手書きの診療録を入力するメイン画面と時系列データを表示するサブ画面で構成されている。手書き診療録画面は、紙のカルテのようにペンで自由に文章や絵を直接、書き付けることができ、領域選択や位置、大きさの調整、記載の消去も可能で、補助機能として計算機機能もある。

 五十嵐氏のTeddyを応用した手書きスケッチ機能を使って、患者さんへの説明を容易に行うこともできる。たとえば、胃の切除を説明するのに、胃の形を描いて3D化し、切除する部分をカットして見せる、といった使い方が可能だ。

 また、時系列データを参照するサブ画面がついており、過去の診療録は巻紙のイメージで同一のファイル上に採録され、上下に移動しながら見ることができる。診療歴の概要を確認するには縮小して一覧することもでき、タグをいれた書類だけ見ることも可能な検索性もある。

[チバヒデトシ, ITmedia ]

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